![]() | 小さいおうち Blu-ray (2014/08/08) 松たか子、黒木華 他 商品詳細を見る |
大学生の健史(=妻夫木聡)は親戚ともに、亡くなった大叔母のタキ(=晩年:倍賞千恵子)のアパートを片付けていた。健史はタキに自叙伝を勧めていて、最後の原稿を手にする。十代の頃にタキ(=黒木華)は東京に上京し、最初の奉公先の紹介で、平井家の女中に上がる。奥さんの時子(=松たか子)は女学校での清楚な美人で、家はモダンな赤レンガ。厳しい北国で育ったタキにとって、夢の空間だった
いい映画だった
2010年に直木賞をとった中島京子の小説が原作で、タキの回顧録から女中の生活、戦前の東京、道ならぬ恋が描かれる
現代の感覚からすると、平井家の「ちいさいおうち」は到底ちいさく思えず、ド派手な赤レンガは楳図かずおの邸宅を思わせる(苦笑)。しかし現存する古い家(管理人の祖父母のとか)と比較すると、二階建てが少し贅沢かなというぐらい。昔の家は広いのである
脚本はだいたい想像を裏切らない台詞が続く、ベタなものだが、不思議と飽きない。それを裁く演出がよく、豪華な俳優陣の演技が圧倒的で、昭和初期の風景ともに気持ちをさらわれていく
原作の反映か分からないが、時子の不倫のみならず、タキと時子、友人の睦子(=中島朋子)らの場面では百合的なお肌のふれあいも強調されていて、性の輝きが映画に色を添えている
しかし、ラスト30分の現代パートは完全に蛇足。画竜点睛を欠いたか
作中では戦後教育を受けた健二が、タキの語る日本を戦前を美化していると指摘し、タキが「何も知らないんだね」と諭す場面がたびたび登場する
「世田谷・九条の会」の呼びかけ人が撮ったとは思えない方向性で、それだけ歴史と向き合う気持ちが強いのかもしれない
日中戦争の開戦当初は平井家に集まる連中も楽観的で、近衛文麿の株が異常に高い。南京陥落したときには、これで戦争が終わると各地で「戦勝記念バーゲンセール」が催された
しかし、泥沼化して「国家総動員法」が施行されると、旦那さん(=片岡孝太郎)の玩具会社は製品の木造化を余儀なくされ、アメリカの経済封鎖などから景気は一気に悪化していく
そして、真珠湾の日を迎えるが、酒屋のおっさん(=螢雪次朗)も万歳し「すっきりした」と叫び。タキも「新しい時代が始まるように思えた」と書き記す
戦争を経た人間が忘れようとした感覚が、フィクションの中で再現されている
「小さいおうち」で驚くのは、家の中身が現代とあまり変わらないことだろう
特に坊ちゃんの部屋は、間取りや家具も洋風一色で、今と何が違うといえば玩具ぐらいだ
しばらく前にNHKで戦前の映像に色をつけて再現するドキュメントがあったけど、戦前の東京は戦後と見まがうネオン街だった
女中さんが狭い部屋で寝泊りするように、階級格差は激しかったにしろ、現代人が生活する文化みたいものは戦前に始まっていて、戦後の経済成長を通して地方までその様式が波及したということなのだろう
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