fc2ブログ

『不毛地帯』 第5巻 山崎豊子

盆休み中の大雨には驚いた
管理人は京都府宇治市に住んでいて、アパート周辺は無事だったが、醍醐よりの五ヶ庄などは水浸しになったらしい
職場でも家の一階が流されてしまった人がいた
大雨も集中した地域とそうでない地域と落差がありすぎて驚く

不毛地帯 第5巻 (新潮文庫 や 5-44)不毛地帯 第5巻 (新潮文庫 や 5-44)
(2009/03)
山崎 豊子

商品詳細を見る


壱岐はイランでの油田開発を戦前・戦中の経験から日本の将来を賭けた仕事だと考えていた。しかし、五菱商事を中心とした財閥グループは近畿商事の動きに割りこみ、経済界の序列どおり末席に追いやられてしまう。そこで壱岐はアメリカの独立系石油会社と手を組み、搦め手から開発権争いに食い込もうとする。壱岐の決意を受けて、腹心の部下兵頭は、イラン国王へ特別なコネクションを作ろうと目論むが・・・

最終巻は壱岐が最後の仕事と位置づけた、イランでの油田開発が中心だ
イスラム革命が起こる前のイランは、パフレヴィー朝のシャーによる専制政治体制で、全ては王とその周辺のロイヤルファミリーによって事は運ぶ
出入りする商社マンには絶えずロイヤルファミリーのコネクションをちらつかせた情報屋、山師がいて、いろいろな口実を設けたは金を巻き上げようと待ち構える
小説では、こうした中東の独裁政権の腐敗ぶりとその現実に真っ向から挑む商社マンの姿が描かれる
表向きの主役は壱岐だが、もっとも活動的なのは部下の兵頭だ。作者は壱岐の顔を立てる形で、ストーリーを展開させてしまうが、もう少し兵頭を旨い目に会わせて欲しかったかな

前巻から、タグに「瀬島龍三」を入れるのを止めた
なぜかというと、近畿商事のモデルである伊藤忠商事はイランの石油開発に関わったことはなく、瀬島が直接関わることはなかったはずだからだ
いすゞ自動車とゼネラル・モーターズの提携には関わっているものの、それ以後の瀬島は中曽根政権のブレーンとなり第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参加し、政界の指南役と呼ばれる存在に上りつめた
小説では田中角栄をモデルにしただみ声の田淵総理児玉誉士夫とおぼしき“鎌倉の男”との取り引きは描かれるものの、実際の瀬島龍三とは乖離していくのだ
伊藤忠はインドネシアの油田開発に参加していて、それは小説にも反映しているが、イランで開発を行なったのは帝人が旗振り役となって三井物産などのグループで、場所はサルベスタンではなくロレスターン鉱区
(→参考記事 総合エネルギー調査会総合部会第2回 議事録〈経済産業省〉)
記事によれば小説のようにハッピーエンドではなく、何千億と四人の社員を犠牲にした大失敗だったようだ
論客として有名な寺島実郎のハーバード・ビジネス・スクールのカントリーリスクの失敗案件のケーススタディーに必ずモデルケースとして出てくる(笑声)ものでして、革命が起こり、戦争が起こり、踏んだりけったりのプロジェクトとしてです。」という答弁は泣ける
日本に石油を届けるために戦った商社マンは確かにいたのだ

あとがきによると、作者は前半をシベリアを中心とした“白い不毛地帯”後半を石油開発を中心の“赤い不毛地帯”とする構想だったらしい
シベリアまでの壱岐の半生は不毛地帯に相応しい。が、その後の商社マンとしての人生を不毛地帯とはいえない
なるほど軍隊しか知らない人間が畑違いの商社に入っていく苦労はあったかもしれない
それでも、信頼に値する上司、心情が通じる元軍人の部下や戦友たち、堪え忍んでくれた妻子に、無聊を慰めてくれる愛人がいた。人間の縁ではかなり恵まれているし、世間的にも位人臣を極めたといっていい
精神的に“不毛地帯”というのなら、シベリアの傷が常につきまとう繊細なキャラクターが似合うが、これだと商社で成功するリアリティがないか
作者は力不足を口にしているものの、あまりに抑えなければならない範囲が多すぎた。結果的に瀬島龍三を必要以上に持ち上げテーマが散漫になった嫌いがあって名作とは言えないけれど、高度成長期の各業界を知る上で参考になる大作だと思う

毎日が日曜日 (新潮文庫)毎日が日曜日 (新潮文庫)
(1979/11)
城山 三郎

商品詳細を見る

空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
(2009/11/10)
松本 清張

商品詳細を見る

解説にあげられていた商社を取り扱った小説がこの二本
上の二本は商社を批判的に書いていて、『不毛地帯』は、商社の活動に積極的な意味を見出したことに意義があるらしい
商社の世界は国家の利害と深く関わっていて、奥がある


前巻 『不毛地帯』 第4巻

『不毛地帯』 第4巻 山崎豊子

読みやすいけど、全体としては散漫かも

不毛地帯 第4巻 (新潮文庫 や 5-43)不毛地帯 第4巻 (新潮文庫 や 5-43)
(2009/03)
山崎 豊子

商品詳細を見る


千代田自動車との提携を巡って、フォーク社との熾烈な駆け引きが続く。その間にも壱岐は、総合商社として石油産業に飛び込もうとしていた。戦前の日本が資源の乏しさから戦争に踏み込んだ歴史を意識してのことであった。腹心の部下である兵頭は、イラン、リビアに飛び、新たな油田を探して回る

アメリカ近畿商事社長としてフォーク社との提携を支援したい壱岐だったが、里井副社長との確執でこの案件から遠ざかることに
専務に昇進し東京に復帰してからも同様で、千代田自動車の件が片付かないうちに最終章ともいえる石油産業編に突入していく。結局は千代田-フォークの提携はライバルに潰され、自動車編は僅かな火だねを残しながらも幕を閉じる
演出的に壱岐は前に出ず、里井副社長に失敗を押しつける格好になっているので、自動車編はどうもすっきりしなかった。壱岐にまるで傷がつかないのだ
権力闘争であれ、経済戦争であれ、ライバル同士ちゃんとぶつかった方が展開が盛り上がる
業界の構図を眺めるには申し分ないほど調べられているけども、謀略小説としては壱岐が奇麗なままでいるのが出来すぎている本能剥き出しの鮫島の方が魅力的だ

ビジネス面では清廉でも、私生活の方ではアラアラな状況に
秋津千里と愛人関係を続けるはいいが、身を固めるわけでもないから、息子や娘に気付かれるとオロオロとせざる得ない。もう、みっともないったらない
代官山のマンションに亡き妻の遺影を運び込んだものだから、千里も遠慮し出す始末だ
娘はともかく、大人になった息子がここまでショックを受けるのは幼すぎる気はしたが、これは昔と今の家族に対する感覚のギャップなのかもしれない
自動車産業の件もそうだけど、私生活の展開でも余り先を詰めずに転がしたためか、上手くまとまっていないと思う
主人公の苦悩がまんま自業自得なので、「ざまあ」と思わざる得なかった(笑)

気を遣わなければならない範囲が広すぎて、作者の手に余る題材だったのだろう。細部は文章力でよく収まっても、それぞれが詰めのやや甘く突き抜けなかった
商社の件でも手一杯なのに、清輝の仏法修行、千里の陶器など、別の世界のことも入れたのは、小説として無理が過ぎたように思える。ここまで書けてしまうのは、作家の腕力ではあるけれど
ドラマ化されたように大作という評価は分かるものの、小説としてはバロック的に膨らみ過ぎて名作というには及ばないか


次巻 『不毛地帯』 第5巻
前巻 『不毛地帯』 第3巻

『不毛地帯』 第3巻 山崎豊子

なかなか打線が噴火しない我がタイガース
統一球+広いストライクゾーン+甲子園では、ホームランがまったく計算できないわけで、機動力中心の野球ができないと・・・

不毛地帯 第3巻 (新潮文庫 や 5-42)不毛地帯 第3巻 (新潮文庫 や 5-42)
(2009/03)
山崎 豊子

商品詳細を見る


次期戦闘機計画、第三次中東戦争と実績を積んだ壱岐は、常務に就任し近畿商事の総合商社化を提唱する。その推進のため、不振の千代田自動車にと米メジャー・フォーク社との外資提携を仕掛けるが、社内で千代田の国内合併を模索する里井副社長と対立することに。壱岐は社内融和と身内の不幸からアメリカ近畿商事の社長に異動するも、現地でフォーク会長と直に交渉し数年越しで外資提携を目指すのだった

業務部本部長から取締役の末席に昇進した壱岐だったが、入社数年での異例の出世から社内では嫉妬、特に里井副社長からは次期社長のライバルとして意識されるようになる
里井副社長は入社仕立ての壱岐を後押ししてくれた人間だった
外では抜け目のない外資や東京商事と熾烈な争いをしつつ、内ではかつての恩人が権力闘争しなければならないという、組織人としての苦みを感じさせる第三巻だ
千代田自動車、フォーク社と仮名が振ってあるが、モデルの名は全く違う
伊藤忠商事が実際に提携させたメーカーは、いすゞ自動車で相手はゼネラル・モーターズなのだ
あえて全く違う仮名をつけたのは、モデルとなった会社に言い訳できるようにするためで、私企業のことなのでFXの件よりは同情できる
フォーク会長とのコネを韓国の三星物産(=サムスン物産)社長につけてもらい、大統領と面会を果たすなど、陸軍の経歴を生かした人脈は、瀬島龍三そのまま

作者は壱岐を理想の男性に仕立て上げたいのか、幾つかご都合の展開を用意していた
その最たるものが、シベリア抑留の11年を待った妻、佳子の死
ドラマにもなったので豪快にネタバレすると、交通事故で全くの突然に死んでしまうのである
現実にいくら交通事故で死ぬ人が多いとしても、小説でこの展開は芸がなさすぎる。展開上、邪魔になったから殺したというのが丸わかりではないか
結局、壱岐に恋いこがれる秋津千里との逢瀬が予定されていて、彼を不倫男にしないために妻を始末したということなのだ
それにしても、交通事故はヒドイ(笑)。せめて計画的に、病気などの設定を用意しておくべきだろう
僕がここまで書いてしまうのも、モデルである瀬島龍三の奥さんが90歳まで生きて、70年以上の結婚生活を送っていたからだ。奥さんが死んだ後、瀬島が後を追ったように亡くなるという、そういう夫婦なのだ
いや、この改変はえげつない。僕のなかで山崎豊子はヒールになったな

自動車産業に関しては、熾烈な国内の競争民族資本を守ろうとする通産省に、それに苛立つ米メジャーと、業界の構図が分かりやすく解説されていた
トヨタ、日産クラスは、外国で安い車を売って優位に立っているものの、国内の中小は外資が入ると戦えないという複雑な状況だったのだ
なにせい方々に気を遣った小説なので、細部に関してはそのまま正しいか保証しかねるが、参考にはなるだろう


次巻 『不毛地帯』第4巻
前巻 『不毛地帯』第2巻

【考察】第一次FX問題の真相!?

大下英治のノンフィクションを読んでいたところ、FX問題が出て来たので速報気味に
昭和の黒幕、児玉誉士夫を中心に取り上げたものなのだが

黒幕―昭和闇の支配者〈1巻〉 (だいわ文庫)黒幕―昭和闇の支配者〈1巻〉 (だいわ文庫)
(2006/03)
大下 英治

商品詳細を見る

児玉誉士夫は第一次FXのとき、ロッキード社側の秘密コンサルタントとしてグラマン社優勢の状況をひっくり返そうとしていた
他にロッキード社につく政治家に、当時の経済企画庁長官・河野一郎がいて、『不毛地帯』では久松の立ち位置だ
児玉はその筋で有名な高利貸し、森脇将光から独自の情報を得ていて・・・

 じつは森脇が、天川勇の情報を掴んだのは、元警察庁警部によってであった。天川勇なる軍事情報屋が、機種決定をあずかる国防会議参事官やグラマンの代理店である伊藤忠関係者らと、都内の料亭、キャバレーで豪遊しているという。森脇は、その情報をきっかけに天川について調べはじめたのであった。
 (中略)
 天川がいかに“グラマン内定”に暗躍したか?
 軍事情報ブローカーとして、国防に関するそれぞれの官庁極秘、秘、部外秘の機密書類を入手し、とくに新三菱重工と深い関係をもって、防衛庁、国防会議との密接な連絡を保ち、“グラマン内定”に暗躍した」(『昭和闇の支配者 一巻 黒幕』p127-128)

ちょっと待て、伊藤忠商事はグラマン側についておるではないか(苦笑)
ロッキード社にはなぜか同系列の丸紅(創業者が同じ!)がついていて、それはそれでカオスなのだが

『沈黙のファイル 「瀬島龍三」とは何だったのか』を読み直すと、モロにその話が載っていた
当時、伊藤忠の航空機部にいた田村秀一の談話として

「瀬島さんが航空機部に来た当初はFXは99%、グラマンに決まっていて、契約が成立したら、グラマンが正規の口銭とは別に成功報酬として七百万ドルを伊藤忠に支払うという約束までできていた。それが突然ひっくり返った。青天の霹靂だった。まさか河野一郎が敵に回るとはね。ロッキード側が河野に『前金』を打ち込んだに違いないと思ったよ。後で分かったんだが、河野の変心の裏には右翼の児玉誉士夫が絡んでいた」(『沈黙のファイル』p271)

つまり、『不毛地帯』での構図は逆で、伊藤忠側がひっくり返される側だったのである
東京商事に罪を被らせたのは、モデルの日商岩井がグラマン事件で逮捕者、自殺者まで出したから、敵役としてイメージを作りやすかったからだろうか
伊藤忠はこの“敗戦”を受けて、瀬島龍三の助言を受けながら国防関係の巻き返しを図った
国防会議用に素人でも読みやすい表を作ったり、防衛庁の関係者から極秘書類を手に入れたという(流出が発覚した際には、免職者を伊藤忠に受容れている)。流出に関してだけは事実に近い(苦笑)
ちなみに、『不毛地帯』の貝塚のモデルとおぼしい、海原官房長は防衛庁で「海原天皇」と呼ばれる権勢を誇り、瀬島龍三並びに伊藤忠と親しいと噂されていたという
まったくもって、壱岐正=瀬島龍三という構図は当てはまらないのだ

ここまで来ると『不毛地帯』の小説としての性質も見えてくる
山崎豊子としては波風を立てたくなかったのかもしれないが、結果的に瀬島龍三を美化するどころか、その汚さを隠蔽してしまっている
みんな、だいたいが瀬島をモデルと思い、瀬島もそれを利用してきたのだ
記者出身でありながら、ジャーナリストとしての意識が低すぎるのじゃないのか
『不毛地帯』は小説と割り切って読んでいくけど、かなりがっかりしたぞ


関連記事 『沈黙のファイル 「瀬島龍三」とは何だったのか』
     『不毛地帯』 第2巻
     『瀬島龍三 参謀の昭和史』

『不毛地帯』 第2巻 山崎豊子

タイガースの貧打に涙
ストライクゾーンが広いとか、言い訳にならない

不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41)不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41)
(2009/03)
山崎 豊子

商品詳細を見る


商社マンとして生きる決意をした壱岐は、大門社長のたくらみで次期戦闘機のテストを見学することになる。そこには陸士、陸大で同期で、今は空幕防衛部長を務める川又伊佐雄がいた。川又から腐敗した政治家たちの都合で次期戦闘機が決まってしまう現状を知った壱岐は、自ら航空部に移り第一次FXの大商戦に関わっていく

第2巻は、第一次FX第三次中東戦争に関わる商戦の二本立て
次期戦闘機計画はほぼ史実に準じていて、ラッキード=ロッキードグラント=グラマンとモデルも分かりやすい。F104は、まんまF-104スターファイター
当時の首相、岸信介はグラマン社から機数あたりでリベートをもらっていたという疑惑があり、F-104に決まっていた次期戦闘機をF-11タイガー(作中はスーパードラゴン)するべく働きかけていた
その疑惑は表面化したものの、捜査の段階ではリベートの受け取りが行なわれていなかったということで、事件化されなかったという
小説での近畿商事(伊藤忠)と東京商事(日商岩井)の暗闘は、そうした第一次FX問題の舞台裏を取材、推測したものといえそうだ

第2巻はシベリアの回想がなくなり、政界、海外を巻き込んだ謀略戦が中心となる
そのため、前巻にあった終戦時の悲哀が薄れ、経済復興の上げ潮に推される形で娯楽色が強くなった
主人公、壱岐正のライバルで登場するのが、東京商事の鮫島辰三
壱岐のモデルである瀬島龍三をもじったような名前でありながら、文中にも「鮫のように獰猛な商社マン」なんて表現もなされている、絵に書いたような男なのだ
「シャーと来るからシャアなんです」ならぬ、「鮫のようだから鮫島です」と真っ向から来るのだから、新宿鮫も脱帽である
しかも、壱岐の娘と鮫島の息子が交際しているという、ありえないラブコメも重なるのだから、たまらない(苦笑)
この二人にロミオとジュリエットでもさせるのであろうか

その他、夫婦のいさかいに娘が目を覚まして泣くとか、鮫島が壱岐と同じクラブをいきつけにして毎度嫌みを言うとか、王道すぎるドラマが展開されていく
こうしたベタさは作者の計算であって、雲の上、闇の奥の闘いばかりでは読者の気が削がれると、読みやすいようにバランスを取っているわけで、鮫島の設定にみる遊び心含めてこのサービス精神が多くの読者を取り込んでいるのだ
川又空将の自殺とか史実にあったか良く分からない事例もあったり、秋津中将の娘、千里が壱岐の不倫相手としてスタンバっていたりと刺激的な展開も含んでいて、事実かどうかと突きつめず『竜馬がゆく』を読むぐらいのスタンスで付きあうべきだろう
昭和の時代の出来事でここまで小説として遊ぶのは、凄い度胸だと思う


次巻 『不毛地帯』 第3巻
前巻 『不毛地帯』 第1巻

『不毛地帯』 第1巻 山崎豊子

私の経済状況のことか

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))
(2009/03)
山崎 豊子

商品詳細を見る


日本独立後の1950年代、元大本営参謀の壱岐正は、再就職先として商社の近畿商事から声をかけられる。商事の社長大門は、国費を投じて育成された参謀としての能力を、国際展開する大組織の中で生かして欲しいと言う。軍人に民間企業が勤まるのか、逡巡しながら11年間のシベリア抑留を回想する

会社でぼちぼち読んでいて、一月かかってしまった。一冊600項もあって長いのだ
初版は4巻構成で文字が小さかったらしいが、新版で5巻構成に代わり文字が大きめになったようだ。おかげで作者の文章力もあいまって、かなり読みやすかった
壱岐正のモデルが瀬島龍三で、大本営参謀→シベリア抑留→近畿商事(伊藤忠商事)の経歴は確かにそのまま
ただし、シベリア抑留時代など細部の行動に関しては、他の人間から持ってきているようで、小柄で虚弱な壱岐がソ連に転向した民主委員に乱暴するなど急に人が変わったような箇所がある
作者とすれば、シベリア抑留の過酷さを壱岐という人物を通して伝えたかったのだろう

山崎豊子というと盗作裁判なんてこともあったから、どこまでが創作でどこまでが借用(!)かと気になってしまうのだが、この作品については、あまり借用がないように思う
登場人物の行動がかなりドラマ仕立てなのだ
シベリア抑留時の英雄的行動もしかり、壱岐が商社の仕事を説明されるところなど、映画かNHKのドラマのような演出、場面展開を見せる
序盤に1950年代現在からシベリアを回想し、その回想の中の自分が終戦時の満州を回想させるという離れ業(苦笑)もあって、回想から現実へスリリングに物語は動いていく
ノンフィクションではなく、史実の話を総合して作ったフィクションとして昭和の裏側を語っていると考えるべきだろう

壱岐正以外の人物にも目が向けられている
シベリアに抑留され東京裁判のソ連側証人として東京で自殺した秋津中将。その息子清輝はフィリピンでの仲間の多くを死なせたことを苦にして、出家し比叡山で厳しい修行に挑む
娘の千里は、男ばかりの陶器職人の世界に身を投じ、品評会への出品にまでこぎ着けた
戦争に関わった、またはねじ曲げられた人たちの群像劇であり、戦後を生きる一人一人が光彩を放っている


次巻 『不毛地帯』 第2巻

関連記事 『沈黙のファイル-「瀬島龍三」とは何だったのか』
カテゴリ
SF (28)
RSSリンクの表示
リンク
ブログランキング
FC2 Blog Ranking
にほんブログ村 にほんブログ村 本ブログへ
検索フォーム
タグランキング
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。