管理人は京都府宇治市に住んでいて、アパート周辺は無事だったが、醍醐よりの五ヶ庄などは水浸しになったらしい
職場でも家の一階が流されてしまった人がいた
大雨も集中した地域とそうでない地域と落差がありすぎて驚く
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壱岐はイランでの油田開発を戦前・戦中の経験から日本の将来を賭けた仕事だと考えていた。しかし、五菱商事を中心とした財閥グループは近畿商事の動きに割りこみ、経済界の序列どおり末席に追いやられてしまう。そこで壱岐はアメリカの独立系石油会社と手を組み、搦め手から開発権争いに食い込もうとする。壱岐の決意を受けて、腹心の部下兵頭は、イラン国王へ特別なコネクションを作ろうと目論むが・・・
最終巻は壱岐が最後の仕事と位置づけた、イランでの油田開発が中心だ
イスラム革命が起こる前のイランは、パフレヴィー朝のシャーによる専制政治体制で、全ては王とその周辺のロイヤルファミリーによって事は運ぶ
出入りする商社マンには絶えずロイヤルファミリーのコネクションをちらつかせた情報屋、山師がいて、いろいろな口実を設けたは金を巻き上げようと待ち構える
小説では、こうした中東の独裁政権の腐敗ぶりとその現実に真っ向から挑む商社マンの姿が描かれる
表向きの主役は壱岐だが、もっとも活動的なのは部下の兵頭だ。作者は壱岐の顔を立てる形で、ストーリーを展開させてしまうが、もう少し兵頭を旨い目に会わせて欲しかったかな
前巻から、タグに「瀬島龍三」を入れるのを止めた
なぜかというと、近畿商事のモデルである伊藤忠商事はイランの石油開発に関わったことはなく、瀬島が直接関わることはなかったはずだからだ
いすゞ自動車とゼネラル・モーターズの提携には関わっているものの、それ以後の瀬島は中曽根政権のブレーンとなり第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参加し、政界の指南役と呼ばれる存在に上りつめた
小説では田中角栄をモデルにしただみ声の田淵総理や児玉誉士夫とおぼしき“鎌倉の男”との取り引きは描かれるものの、実際の瀬島龍三とは乖離していくのだ
伊藤忠はインドネシアの油田開発に参加していて、それは小説にも反映しているが、イランで開発を行なったのは帝人が旗振り役となって三井物産などのグループで、場所はサルベスタンではなくロレスターン鉱区だ
(→参考記事 総合エネルギー調査会総合部会第2回 議事録〈経済産業省〉)
記事によれば小説のようにハッピーエンドではなく、何千億と四人の社員を犠牲にした大失敗だったようだ
論客として有名な寺島実郎の「ハーバード・ビジネス・スクールのカントリーリスクの失敗案件のケーススタディーに必ずモデルケースとして出てくる(笑声)ものでして、革命が起こり、戦争が起こり、踏んだりけったりのプロジェクトとしてです。」という答弁は泣ける
日本に石油を届けるために戦った商社マンは確かにいたのだ
あとがきによると、作者は前半をシベリアを中心とした“白い不毛地帯”、後半を石油開発を中心の“赤い不毛地帯”とする構想だったらしい
シベリアまでの壱岐の半生は不毛地帯に相応しい。が、その後の商社マンとしての人生を不毛地帯とはいえない
なるほど軍隊しか知らない人間が畑違いの商社に入っていく苦労はあったかもしれない
それでも、信頼に値する上司、心情が通じる元軍人の部下や戦友たち、堪え忍んでくれた妻子に、無聊を慰めてくれる愛人がいた。人間の縁ではかなり恵まれているし、世間的にも位人臣を極めたといっていい
精神的に“不毛地帯”というのなら、シベリアの傷が常につきまとう繊細なキャラクターが似合うが、これだと商社で成功するリアリティがないか
作者は力不足を口にしているものの、あまりに抑えなければならない範囲が多すぎた。結果的に瀬島龍三を必要以上に持ち上げテーマが散漫になった嫌いがあって名作とは言えないけれど、高度成長期の各業界を知る上で参考になる大作だと思う
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解説にあげられていた商社を取り扱った小説がこの二本
上の二本は商社を批判的に書いていて、『不毛地帯』は、商社の活動に積極的な意味を見出したことに意義があるらしい
商社の世界は国家の利害と深く関わっていて、奥がある
前巻 『不毛地帯』 第4巻