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【プライム配信】『ククルス・ドアンの島』

『THE ORIGIN ククルス・ドアンの島』が原作ではない


宇宙世紀0079。地球連邦軍ジャブローへの奇襲を退け、ジオン公国の最重要拠点オデッサへの反攻を目指していた。しかしホワイトベースへは、カナリア諸島の無人島・アレグランサ島“残置諜者”の捜索を命じられる
灯台に向かったカイ・シデンたちは、灯台で暮らす子供たちを発見するが、クレーターを目指したアムロ・レイは、崖で不意を突かれ、ガンダムともに崖から落ちてしまい……

初代『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島を元に、劇場版としてリメイクしたもの
もとがテレビシリーズの1話分であり、それを1時間49分の尺としたことから、ククルス・ドアンの前歴を付け加えたり、面倒を見る子供たちが4人から20人に増やすなど、設定の改変も多い
しかし、大まかなストーリーラインもテーマは同じであり、今どき珍しい手描きのアニメと当時の表現を引き継いでいて、40年余の月日を経て見事に蘇らせた
「ただサバイヴする以上の力を持ったときに、何のために振るうべきのか」「役割を終えた力をどうするべきなのか」。ひとつのエピソードに過ぎなかった第15話が選ばれたのは、ガンダムの持っているテーマが凝縮されていたからだと分かる

残置諜者とは、劇中でも説明があるが、味方の部隊が撤退したあとに工作員として残り、情報収集や破壊活動に従事する者。農作業をするドアンがヘルメットをかぶる様は、旧日本兵のごとしで、陸軍中野学校を出てフィリピンで敗戦後29年間潜伏した小和田寛郎を思い起こさせる
もっともドアン自身は脱走兵であり、“残置諜者”とすり替わった格好で居座ったようだが……
アムロが“ニュータイプ”のわりに察しが悪いのが、テレビ版かつ安彦良和の風味。MSで見せる才能を封印して、いかに現地の子供たちの信用を得るか、軍属の立場から離れた人間が試されるのだ

戦闘面では、連邦のジム、ガンキャノンの武装にバリエーションが見られるのが見どころの一つ。年表が「THE ORIGIN」にならって、ジャブロー奇襲作戦→オデッサ作戦の順に位置づけられているので、連邦にジムが続々と登場し、ホワイトベース隊でもスレッガーさんがジムに乗る

テレビ版は15話で、ランバ・ラル戦の直前。島の場所は違うだろうし、年代的にジムは出せない

ジオン側では、ドアンが隊長を務めていたサザンクロス隊が、ホバーで走行する地上型高機動型ザクがそれぞれカスタマイズされた形で、活躍する
ただ残念なのは、せっかく個性的なサザンクロス隊が、登場時のチームワークを活かさずに次々と倒されてしまうところ。特にドアンに3対1の状況にいて、簡単に各個撃破というか、一騎打ち三連戦となるのが、往年の不良映画の決闘のような風情なのである
また、ガンダムあるあるなのだが、子供たちが間近にいるところに核融合炉が爆発させるのには、ヤキモキしてしまう(苦笑)
途中までの盛り上げ方にしては肩透かしを食らったものの、本当に見せたいのは立場の違う人間の交流、交歓ということなのだろう。なんだかんだ、初代はいいよな、と思い起こさせてくれる映画だった




『革命とサブカル』 安彦良和

連合赤軍は何を終わらせたのか。革命からサブカルの時代の移り変わりを当事者たちが問う




ファーストガンダムの作画監督、歴史物の漫画家として知られる安彦良和が、弘前大学で学生運動に関わった人々と過去と現在を語り合う対談集
60年代で派手に燃え盛り、72年の「連合赤軍事件」で下火になっていく学生運動の実態が赤裸々に語られている
安彦良和は弘前大学において全共闘運動にのめり込み、リーダーとして弘前大学本部(取り壊す予定の建物だが)を占拠! 警察に捕まり、大学から退学処分を受けていのだ
話はそこにとどまらない。弘前全共闘で活動を共にした青砥幹夫植垣康博は、後に赤軍派に参加し連合赤軍事件の当事者となってしまう(青砥とは、山岳キャンプ入り前に会っていた)
その両名との対談に加えて、日本共産党系の学生組織「日本民主青年同盟」(民青)にとどまって対立した人に、アングラの舞台人と転じた人との対話もある
そこから見えてくるのは、後の世代から「まとめて左翼」と断じられているものが、それぞれの活動家にとって、お互い相いれない存在であるということ
学生グループには、共産党系の民青もあれば、アナーキズムの流れをくむ「べ平連」に近いもの、大学執行部に反抗する全共闘と、マルクス主義への傾倒は一致しているものの、内実はバラバラだったのだ


1.全共闘世代とサブカルチャー

対談、論考のなかで浮かび上がってくるのは、タイトルでは革命とサブカルを対峙させながら、全共闘世代が「サブカル世代のはしり」ではないかということ
よど号ハイジャックのグループが「われわれは明日のジョーである」という声明文を残したように、大学生が漫画を読み続ける最初の世代だった。ヤクザ映画も流行して、橋本治創案の東大学園祭のキャッチフレーズ「とめてくれるな、おっかさん。背中の銀杏が泣いている」だった
「エロ・グロ・ナンセンス」も好む新左翼のこうした傾向は、日本共産党系のお行儀のいい文化論への反発でもあったそうだ。安彦氏はこの新左翼のお行儀の悪さ、カウンター・カルチャーが、サブカルチャーの興隆の源泉と考えている
よど号ハイジャック事件に話を戻すと、リーダーの田宮高麿は、すでに独裁体制と分かっていた北朝鮮と中国を説得して革命根拠地とする気でいたという。世界の実情をわきまえない、その想像力は、自分と世界の中間を欠落した「セカイ系とまで評する
すでに新左翼の「革命」はサブカルの領域に突入していたというのだ


2.全共闘世代のその後

すべての対談が興味深い。弘前大学の演劇集団「未成」メンバーとでは、同時代に蜷川幸雄の演出レビュー作を先取りしてやった話に、麿赤兒の舞踏集団「大駱駝艦」つかこうへい、松田優作、寺山修司の「天井桟敷」の名が飛び出すなど、当時の演劇界の熱さがうかがえる
元民青でかつて対峙したお相手とは、沖縄問題における本土人との感覚の違いが問題となる。本土から基地返還運動でやってきた活動家は、意外とナショナリズムの意識が強く、日本の領土奪還という認識でいる
しかし沖縄県民からすると、琉球処分、沖縄戦から本土に複雑な感情を持っており、そうした活動家とも溝があるという


3.セカイ系→ハーレム→物語回帰?

そして、サブカル代表(?)としてアニメ研究家・氷川竜介との対談。安彦氏は、社会という中間を抜いて世界を変える「セカイ系」批判をするつもりが、「すでに終わっている」と言われて拍子抜け。今は、異世界でチート的な能力を振るう「異世界転生」「なろう系が取って代わっている
氷川氏いわく、もはや世界の問題すら必要なく、自分の願望が叶うハーレムワールドなのだ。会社員が家に帰って見る読むとなると、物語の「葛藤」に身をつまされるより、癒し」のほうが求められるからだとか
とはいえ、その一方で『アルスラーン戦記』がリメイクされるのは、ファンの中では古典的でも物語を期待する向きがある。『エヴァンゲリオン』も根本は『マジンガーZ』でいわば‟懐かしもの”なのだ


本書は前半が対談で、後半が安彦氏の論考というかエッセイになっている
ワイドショー的な関心かもしれないが、栗本薫、永井豪、富野由悠季、庵野秀明などへの言及が興味深く、全共闘から手を引いた者をなじり、残った活動家を褒める映画監督の若松孝二、元赤軍派の塩見孝也には手厳しい
転向という言葉は、共産主義の側から作られた言葉で、全共闘や連合赤軍を経て「生を極めて」変化した人々をなじるのはお門違い。むしろ、変われない硬直した態度のほうが問題なのだ
正直、論考の部分は時事放談の部分も多く、各人物の好悪がはっきりしていたりするのだが、あの70年代のことに関しては、その時代を生きた者にしか分からない空気が伝わってくる
管理人の親父と同世代であり、語ってくれなかった時代の話を代わりに聞けたのが有難かった


*23’4/5 加筆修正

連合赤軍を扱ったマンガ 『レッド』 第1巻

『天の血脈』 第7巻 安彦良和

数年前に完結していた件。いろいろ抜けてますわ……orz


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第7巻。韓国併合を巡る騒乱は、頂点を極める
日本側が韓国内の合邦派「一進会」と手を組んで、高宗から皇太子(純宗)への譲位を強行した。義兵蜂起による混乱のなか、安積亮右翼の大物・内田良平と再会するが、歴史の政治利用を拒否して絶交する
朝鮮での後ろ盾を失った安積は予定どおり、満鉄の調査部へ向かわねばならないが、海人族のイサナの結末を追って遺跡調査に乗り出す。百済時代の城壁で、彼は高句麗と百済・倭国連合軍の戦いを幻視するのだった

前巻ではまんまと研究を政治利用されようとしていたように見えたが、義兵となった北斗を見て安積は改心する
ただ内田良平と絶交する際に、「一進会」の宋ビョンジュンとの会話がなんともいえない。「国を思うからこそ、日本と合邦し根本から生まれ変わる」という宋に対し、安積は「国力が違いすぎるから対等の立場などありえない」「併呑される」と強く反論する
が、宋はそれも承知の上。朝鮮の転落は李王朝積年の失政の結果であり、一度は日本の軍門に下るのもやむなし……とする
朝鮮と自らの行く末に悩む安積のもとに、かつて謎の意気投合をした安重根が駆け込んでくる。伊藤博文を憎む彼は、義兵となることを決意し中国国境の間島地方の馬賊と手を組もうとしていた

安積は朝鮮での遺跡調査を終えて満州に向かうが、そこでは意外な人物との出会い、再会が待っていた
満鉄初代総裁の後藤新平に挨拶へ行くと、執務室には憲兵隊の隊長に着任した明石元二郎が!
日露戦争のとき、駐在武官としてロシアの革命運動を焚き付け10個師団に勝る働きをしたといわれる明石は、後藤を圧倒するほどの熱弁を振るって社会主義、無政府主義の脅威を訴える
返す刃で満州にやってきた内田良平も一喝して、歴史研究からも手を引かせるのだった
明石の構想は満州をもって、共産主義の防波堤としようとするもの。作者はいつものサービス精神で出したのだろうが、ここまで格好よくしてしまうと考えまで同一視されないかと心配になる(苦笑)
そして、百済王の世子から送られた七枝刀を思い出すうちに、恩師・嬉田先生と再会。かつて満州で共に過ごしたハナ(アンナ)も、ボリシェヴィキの党員として活動していたのであった


*最終巻はアマゾンでプレミア価格となっていた。満州編が始まろうとしたところの謎展開らしく、いろんな噂が渦を巻いている
 ここまで間延びして今さらですが、読むのは間が空きそうです…


前回 『天の血脈』 第6巻

『天の血脈』 第6巻 安彦良和

いよいよ物語も佳境!?


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第6巻。安積亮は、社会主義者の宮川との関係から、警察に勾留されていた。安積の研究を利用した黒龍会の内田良平の差し金で釈放され、そのツテで大陸へ。南満州鉄道の総裁になった後藤新平のもとに設立される、「満鉄調査部」に配属されることに。それに先立って、日本の保護国化した朝鮮へと渡り、古代国王たちの墳墓を調査するが……

舞台は韓国併合前夜の朝鮮半島である
安積は朝鮮王朝と日本の皇室との姻戚関係が証明されれば、日韓の融和に役立つと治安の悪いなか、墳墓の調査を強行する。彼は日韓の融和→韓国併合と自然に考えているのが興味深く、当時の平均的な知識人の考え方に沿っているのだ
『虹色のトロツキー』のウンボルトのように、時代に翻弄される狂言回しの役割を演じていくのだろう
安積のライバル的に浮上するのが、津田左右吉で現実の天皇制を尊重しつつも、神武天皇や三韓征伐を否定するなど、この時点で皇国史観を批判している。この津田も満鉄調査部の研究員を務めた時代があるのだ

ゲスト的にねじこまれているのが、伊藤博文を暗殺することとなる安重根である
日本人との取引で騙された(と思い込んでいる)彼は、出し抜いた田代(安積の学友)を追って、安積の屋敷に乗り込んでくる
安重根は両班の出身ながら、私財を投じて学校を建てる篤志家だが、朝鮮の独立を口実に清やロシアと戦った日本が、実質植民地化していることを裏切りとしていた
作中でも朝鮮人民の日本への反感は各所に描かれ、安積自身も襲撃を受けて生死の境をさまよう
ただし、朝鮮国王・高宗ハーグ密使事件を起こすと、初代韓国統監の伊藤博文も激怒し退位を迫る。大陸進出に慎重だった伊藤は本作では、シチュエーションからか帝国主義の象徴のように描かれている(後の安重根との絡みからだろうか)
李完用など日本の元で近代化を目指す一派もおり、反日派に対して親日団体「一進会」もまた日本軍を後ろ盾に武装した大衆(!)を組織し対抗したというから、事態は複雑である


次巻 『天の血脈』 第7巻
前巻 『天の血脈』 第5巻

『天の血脈』 第5巻 安彦良和

戦前日本のターニングポイント。巻末に松本健一との対談後編がある


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海人族のイソラは、神功皇后の子を実子と信じて見守ろうと、紀州の陣にまで従軍していた。しかし武内宿禰の子・襲津彦は、皇子を父の子とすべく、イソラに斬殺しようとする。一方、安積亮は妻の森谷翠に不審な人物がつきまとうことから宿を共にするも、同衾している部屋に血まみれのイソラが顕現するのだった。日露戦争の勝利から、日本政府は朝鮮への圧力を強める一方、中国への革命運動に火消しにかかり、明治の明朗さが失われていく

戦争は終わったが、安積やイソラの主人公は修羅場の連続である
森谷翠につきまとっていた男は、社会主義者であり天皇制の欺瞞を明らかにして、その爆殺を考えるほどの過激派。安積も万世一系を前提とする皇国史観に疑問を持つも、この時代にそれを口にする自由はなく、男のやり方にも同調できない
その後に遭遇するのが、日本政府が中国人留学生を締め出す問題
元来、孫文などの革命家を支援していたのに、清朝との取引から日本を革命の根拠地に使わせまいと政策転換したのだ。知り合った留学生が抗議の自殺をするも事態は変わらず、宋教仁らは日本を離れることとなるのだ
そのときに、政府の犬となって留学生を不逞の輩としたのが当時の朝日新聞!

一方、朝鮮では日露戦争後に第二次日韓協約により、朝鮮統監府を設置おかれる。朝鮮国王を皇帝とする大韓帝国に鞍替えするも、初代統監の伊藤博文が内政・外交の権限を一手に握った
とはいえ、伊藤は日本の対外進出には慎重派であり、あからさまな植民地化が列強の反発をまねくことを恐れていた
それに対して、作中の内田良平は朝鮮併合を目指して新日朝鮮人を組織し、半島を足がかりにした満蒙進出を唱える。今の満蒙は清朝の領土だが、孫文らが革命を起こして転覆させれば、日本のものになりうると考える
その政策の裏づけを得るために、嬉田教授が研究した好太王の碑文が関わってくる。古代日本が三韓征伐で百済と新羅を従えたとすれば、併合に歴史的正統性が加わるからだ
アジアの独立という大義の裏に、帝国主義がしっかり張り付いていて、この流れは大東亜共栄圏に通じるものだ。他国に身銭を切り兵士を送ることには、必ず見返りが求められる。宮崎滔天のような篤事家がいたとしても、大勢はそのように動く
内田がかつての弟子、柳斗星に襲われたことは、近代化の矛先が外へ向かうと帝国主義となる事態を象徴している


次巻 『天の血脈』 第6巻
前巻 『天の血脈』 第4巻

『天の血脈』 第4巻 安彦良和

本当に久々
この時代に婚約者との混浴はありなんか


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軍用車両に乗り込んでしまった安積亮は、内田良平から満州のハルが日露戦争で日本側のスパイとして活躍していると聞く。再び満州に行かないかと誘われるが、神戸を過ぎたところで列車から飛び降りて脱出した。そこは偶然にも五色塚古墳があり、突風ともに古代世界へと巻き込まれていく。仲哀天皇の皇子たちは、神功皇后が三韓征伐中に生んだ子供を天皇に立てることを恐れて、凱旋する艦隊を襲おうとしていたのだった

日露戦争は淡々と終結へ向かっていく
安積はあくまで歴史の真実を追究することにこだわり、内田良平の誘いを断る。彼との仮祝言を終えた森谷翠は、幸徳秋水の平民新聞に影響されて、天皇の万世一系を否定社会主義へのめり込んでいた
怒った安積は平民新聞に乗り込むが、逆に彼の師である嬉田が時勢の要求で史実を曲げる政府の犬であると論駁されてしまうのだった
その平民新聞で再会するのが、大杉栄。彼は最初、社会主義に傾倒するが、日露戦争の講和条約に怒った国民が暴動を起こす(日比谷焼打事件)に及んで、無名の大衆たちのパワーに感動して無政府主義(アナーキズム)へと転ずる
この暴力的な大衆に姿を、嬉田の「暗い時代が始まる」という予言に重ね合わせるラストには震えた。当局の弾圧を受ける社会主義や無政府主義に同情的な視線を向けず、軍国主義へと転がる過程として捉えるのだ

ネタバレになるが、嬉田は政府の犬にはならなかった
内田良平の要求に対して、神功皇后の三韓征伐はあくまで百済の救援が目的であって、高句麗や新羅を征服したわけではないと反発。高句麗の好太王とも戦っておらず、実際に軍事衝突があったのは息子である応神天皇のときであり、そのときも百済や新羅を服属させたわけではない
それが誇大に伝えられたのは、好太王が自らの武功を誇るために碑文に刻んだことが始まりであり、これを「真」とすると当時の倭国が朝鮮半島の政治情勢を左右するほどの軍事大国だったことになる
巻末の松本健一との対談で、嬉田のモデルが喜田貞吉と明かされる。喜田は水戸学に始まる南朝正統論に対して、小学生の教科書に南朝・北朝を併記したことから休職に追い込まれたという
この巻末の対談は、主人公が“安積”族=海人の一族の末裔であることの意味など、シリーズに隠された歴史背景を解き明かしてくれるので非常に勉強になる。必読である


次巻 『天の血脈』 第5巻
前巻 『天の血脈』 第3巻

『天の血脈』 第3巻 安彦良和

あとがきに故・森浩一教授に言及。この人の著作も押さえないとなあ

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満州から返った安積亮は、大陸の体験に圧倒され、故郷の信州で寝込んでいた。実家の神社では日露戦争の戦勝祈願で盛り上がる一方、非戦論を訴える内村鑑三が演説会を開き、その傍らには後に日本を代表するアナーキストとなる大杉栄がいた。安積は幼馴染の森谷翠と結婚し、東京へ戻るが……

疾風怒涛の前巻からすると、舞台が日本に限られ大人しい。次巻で日露戦争下の調査旅行となるので、そのタメの巻なのだ
その割りに、急に幼馴染と祝言を挙げるとか、先生に神がかりの能力を認められるとか、間違えて軍隊の車両に乗り込むとか、主人公自身は大忙し。有名人を出したい、絡ませたいという作者の意図が露骨で苦笑いしてしまった
それでも内村鑑三大杉栄を始め、クリームパンを発明した中村屋と相馬黒光とか、さらりと使ってくる博識は、さすがである
特に大杉栄は意味ありげの登場で、いかにも今後絡んできそうだ。もっとも、意味ありげに登場し、あっけなく退場というケースも安彦漫画じゃ、よくあるけれど(苦笑)

個人的なみどころは、内田良平と嬉田教授のやり取り
内田は嬉田に「応神天皇の父親が好太王と照明されるのが望ましい」とまで言う。皇室が高句麗が支配した満州に縁があったほうが満蒙進出に都合がいいからである
嬉田はそれを拒否しつつも、大陸進出の機運が高まる中、帝大教授を目指して政治を意識せざるえなくなる
実際、大陸で調査を続けるには、内田や軍の協力が不可欠だという実情があった
戦前の古代史研究が、皇国史観のみならず、ときの政情にいかに巻き込まれ、真実が埋もれていったかも、本作の大きなテーマだ


次回 『天の血脈』 第4巻
前回 『天の血脈』 第2巻

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『天の血脈』 第2巻 安彦良和

古代と近代がつながる!

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那津の磯鹿島に住むイサラは大和朝廷の艦隊に連れられ、父イソナとともに神功皇后の遠征を手伝うことになる。神殿に忍び込んだイサラは、神功皇后の儀式に盗み聞いて、仲哀天皇の死に立ち会うのだった。一方、明治の安積亮は玄洋社の内田良平に頼まれ、奉天の色街に密書を届けることになるが…

いきなり近代から古代へ、それも神功皇后の三韓征伐までに遡る
作者はちょうど、隔月誌の『サムライエース』『ヤマトタケル』を連載をしていて、仲哀天皇はそのヤマトタケルの息子にあたる。以前にも『ナムジ』『神武』と日本古代を舞台にした作品があった
そして、近代の作品では『虹色のトロツキー』『王道の狗』があって、今回も日露戦争、まさに日本が大陸に進出し始める時代が舞台となる
古代と近代、安彦作品の二つの系譜が合流しているのが本作であり、大陸と日本の関わりを古代から見直す、集大成的な作品となるようだ

問題は神功皇后の三韓征伐が実在しているかどうか
作品の梯子を外すことは書きたくないが、日本書紀は天武天皇が自分やその関係者の行動を肯定するために、都合よく改竄、解釈されたという疑いがある
神功皇后も白村江の戦いの斉明天皇がモデルであるという説もあり、何が真実かははっきりしないのだ
作者は日本書紀を認めたうえで作品化する立場を選んだのであって、本作から確信を得るにはそれなりの留保が必要だろう

まあ、実際の作品はそんな細かいことはどうでもいいと思うぐらい、古代世界のおどろおどろしさが表現されている。神功皇后が踊る場面など鳥肌もんである
安彦漫画というと、ギャグ面では手塚の影響が濃すぎると言われ今回もそうなのだが、内田良平の顔がでかくなるなど80年代の手法も取り入れられていて新鮮だった(違う意味で懐かしい!)
作者なりに蓄積と工夫があって、今なお前進していると、感じ入った


次巻 『天の血脈』 第3巻
前巻 『天の血脈』 第1巻

『天の血脈』 第1巻 安彦良和

以前ガンダムエースの記事で、安彦さんのマンガ再開を書いてたけど、とっくの昔に他誌で連載を始まっていたようでして(苦笑)

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日露戦争前夜の満州に調査隊が到着した。嬉田教授を隊長とする学生中心の編成で、古代朝鮮の歴史を記した「好太王碑」を研究するためであった。一学生とした同行した安積亮は、ロシア軍、玄羊社の内田良平、馬賊の張作霖ら様々な勢力に翻弄され、国際政治の謀略戦に巻き込まれていく

『虹色のトロツキー』『王道の狗』に続く、近代大河新シリーズ!
本書の物語は日露戦争前の満州が舞台で、古代朝鮮の碑文を入口とする
それにタイトルを加味すると、天皇家や日本人の起源を古代から遡り、引いては戦前のアジア主義の展開を探る内容になるようだ
なにせ、第2巻は古代朝鮮半島が舞台と予告されていて、作品世界が時間軸でも広い!
様式は古い劇画調に手塚なギャグが入る、従来の安彦漫画。最近の漫画と比べて、背景が薄いのは親子二人で制作に臨んでいるからだろう
この作風が、昭和の冒険小説の空気を匂わせてくれて、作品のテーマとも嵌っている唯一無二の安彦ワールドは健在だ

『王道の狗』のラストでは、主人公・加納周助はアジア主義に目覚めて孫文の協力者となった
やや理想主義な幕引きだったが、作者はナショナリズムが狭い空間に留まらず、普遍性を持ったものに昇華する試みとしてアジア主義を見ている
この作品にも既に、日韓併合派の朝鮮青年を登場させて、玄羊社・内田良平の部下に配されている
こうする所以は、アジア主義は日本が大陸へ進出する以前において、アジアの植民地化を防ぐ精神性を持ったものとして、見るべきものがあると評価しているからだろう
少なくとも、現代の国際環境を終着地とする歴史観ではなく、そもそも近代国家や民族観念が成立していない地点からアジアを眺めようという視点がある
日韓同祖論、騎馬民族国家論など、下手すれば簡単に大陸進出を肯定できる危ないテーマである(戦後しばらく単一民族論が流行ったのは、戦前の反動だろう)
果たしてこれをどう裁いていくのか。注目なのだ


前巻 『天の血脈』 第2巻

ガンダムエース 2012年6月号

女子バレーを見ながら
視聴率的に平清盛が息をしていない気がする

*書いている内に日をまたいでしまった・・・

GUNDAM A (ガンダムエース) 2012年 06月号 [雑誌]GUNDAM A (ガンダムエース) 2012年 06月号 [雑誌]
(2012/04/26)
不明

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一年何ヶ月ぶりかで買った
目当ては、もちろん富野対談。相手は昨年話題になった「中国化」の人だ


<「教えてください富野です」 vol109 與那覇潤>

前半はその『中国化する日本』の歴史観について
與那覇氏は、江戸時代を誰もが公平に押さえ込まれた不幸の時代としていて、その抑え込まれたエネルギーが明治維新のエネルギーになったという
自閉的な「江戸時代化に対して、明治維新は開かれた社会「中国化を目指したものと捉える
ここまで聞くと、「脱亜入欧」の時代に「中国化」とはこれ如何に、となるが、與那覇氏の言う「中国化」とは文化的全盛期の南宋時代をモデルにしたもので。近代中国の路線ではない
本当なら南宋化とも言うべきものなのだ

*江戸時代を不幸な時代というのには異論がある
次男、三男が奉公、出稼ぎ先でのたれ死ぬ世界ではあるが、同時に町人がひとり旅できるような治安の良さも誇っていたし、だいいち同時代の他の地域は幸福といえたのか。ヨーロッパでも都市に人が溢れ、戦争が絶えなかった
しかし、明治維新が実質、南宋を目指したものという指摘は鋭くて、幕末の志士たちは儒教の概念から西欧の近代化を理解し、横井小楠などは「共和大統領制は尭舜の世(禅譲)」と評した


「江戸時代化」と「中国化」ともに「上の人間が良ければ上手く行く」という“人格主義”が共通していて、そこを振り子のように変化しただけでは人格主義の弱点はカヴァーできない
與那覇氏が「中国化=南宋化」の概念で言いたかったのは、その弱点を自覚させるためで、それが抜けないと今まで通り行き詰まった末に自壊するハードランディングを繰り返すことになるという
富野監督は次世代を勇気づける言葉を作ってよ、と注文をつけつつ、太平洋戦争の要因は封建制と勤勉革命と喝破、これが全体主義につながると、感銘を受けた模様

後半は『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』から小津作品の秘密について
小津安二郎が理想化された家庭を描いたのは、直に戦争を体験していたからだと富野監督
與那覇氏は小津の作品とアニメーションの親和性を指摘して、「松竹ヌーベルバーグを嫌った富野が小津作品を目指した」必然性を導き出す
アニメ監督への低評価と今の日本映画のだらしなさは、小津批判に始まるのか
この人、若いのに何でも知っているなあ

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史
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帝国の残影 ―兵士・小津安二郎の昭和史帝国の残影 ―兵士・小津安二郎の昭和史
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<「三倍速く!! シャアが行く!」 三石琴乃>
池田秀一の対談コーナー。お相手は三石さん
「ちょっと声の業界自体がおかしくなり始めた頃の、草分け的存在」と毒ガスを吐きつつ、声優アイドル時代の話に入っていく
本業と並行してアイドル活動もやっていたから、セーラームーン1年目でぶっ倒れたらしい
声の出る人が歌を唄うというのはまだ妥当な方だけど、女子アナとかアイドルグループとか素人感を売りにするプロダクションとはなんなのだろうか
声優の世界は、絵が決まった後に声をつけるわけだから、実写以上に職人芸の領域。アイドル文化とはまったく合わないはずだが


<西原理恵子の人生画力対決 安彦良和スペシャル>
東日本復興支援チャリティー企画を口実に安彦さんが引っ張り出されて(!)、ニコニコ生放送でも中継していたようだ
カラー3ページの記事のあと、6ページに渡って漫画のレポートが書いてある
情報番組を放禁で降板した女傑サイバラは、とんでもないキャラクターに描かれて・・・って、かなり実体に近いような(笑)

参考動画:第19回大会(安彦スペシャルの前回)

カラーの方に、両人が描いた絵が幾つか載ってて、サイバラ女史の絵はドラえもん以外凄いことになってる(爆続きを読む
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サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。