宇宙世紀0079。地球連邦軍はジャブローへの奇襲を退け、ジオン公国の最重要拠点オデッサへの反攻を目指していた。しかしホワイトベースへは、カナリア諸島の無人島・アレグランサ島に“残置諜者”の捜索を命じられる
灯台に向かったカイ・シデンたちは、灯台で暮らす子供たちを発見するが、クレーターを目指したアムロ・レイは、崖で不意を突かれ、ガンダムともに崖から落ちてしまい……
初代『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」を元に、劇場版としてリメイクしたもの
もとがテレビシリーズの1話分であり、それを1時間49分の尺としたことから、ククルス・ドアンの前歴を付け加えたり、面倒を見る子供たちが4人から20人に増やすなど、設定の改変も多い
しかし、大まかなストーリーラインもテーマは同じであり、今どき珍しい手描きのアニメと当時の表現を引き継いでいて、40年余の月日を経て見事に蘇らせた
「ただサバイヴする以上の力を持ったときに、何のために振るうべきのか」「役割を終えた力をどうするべきなのか」。ひとつのエピソードに過ぎなかった第15話が選ばれたのは、ガンダムの持っているテーマが凝縮されていたからだと分かる
“残置諜者”とは、劇中でも説明があるが、味方の部隊が撤退したあとに工作員として残り、情報収集や破壊活動に従事する者。農作業をするドアンがヘルメットをかぶる様は、旧日本兵のごとしで、陸軍中野学校を出てフィリピンで敗戦後29年間潜伏した小和田寛郎を思い起こさせる
もっともドアン自身は脱走兵であり、“残置諜者”とすり替わった格好で居座ったようだが……
アムロが“ニュータイプ”のわりに察しが悪いのが、テレビ版かつ安彦良和の風味。MSで見せる才能を封印して、いかに現地の子供たちの信用を得るか、軍属の立場から離れた人間が試されるのだ
戦闘面では、連邦のジム、ガンキャノンの武装にバリエーションが見られるのが見どころの一つ。年表が「THE ORIGIN」にならって、ジャブロー奇襲作戦→オデッサ作戦の順に位置づけられているので、連邦にジムが続々と登場し、ホワイトベース隊でもスレッガーさんがジムに乗る
*テレビ版は15話で、ランバ・ラル戦の直前。島の場所は違うだろうし、年代的にジムは出せない
ジオン側では、ドアンが隊長を務めていたサザンクロス隊が、ホバーで走行する地上型高機動型ザクがそれぞれカスタマイズされた形で、活躍する
ただ残念なのは、せっかく個性的なサザンクロス隊が、登場時のチームワークを活かさずに次々と倒されてしまうところ。特にドアンに3対1の状況にいて、簡単に各個撃破というか、一騎打ち三連戦となるのが、往年の不良映画の決闘のような風情なのである
また、ガンダムあるあるなのだが、子供たちが間近にいるところに核融合炉が爆発させるのには、ヤキモキしてしまう(苦笑)
途中までの盛り上げ方にしては肩透かしを食らったものの、本当に見せたいのは立場の違う人間の交流、交歓ということなのだろう。なんだかんだ、初代はいいよな、と思い起こさせてくれる映画だった