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【プライム配信】『戦場のメリークリスマス』

プライムくん、ありがとう


1942年。日本軍占領下のジャワで、イギリス軍空挺部隊のジャック・セリアズ少佐(=デヴィッド・ボウイ)が捕虜となった。銃殺になりそうなところ、ヨノイ大尉(=坂本龍一)の意図で、レバクセンバタ俘虜収容所に移送された。そこでは現場の指揮をとるハラ・ゲンゴ軍曹(=ビートたけし)と看守による異様で、過酷な秩序が成り立っていた

テレビでの紹介だと、タケちゃんが「メリークリスマス」と笑顔で言う場面が強調されて、本当にクリスマス・パーティが開かれたように思えるが、そんなことはない(苦笑)
日本軍による捕虜虐待、異性のいない軍隊での同性愛、背景の違う同士の僅かな交歓を描いた映画であり、題材が題材とはいえ、女性がまったく登場しないラディカルな作品なのである
原作は南アフリカの作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストの短編集であり、作者が実際にジャワ島で日本軍の捕虜になった経験が元になっている。映画でも、捕虜と日本軍の間で通訳を務めるジョン・ロレンス中佐(=トム・コンティ)が、狂言回しとしての役割を果たしている
反抗を狙うイギリス軍の情報が知りたいヨノイと、それに抵抗するヒックスリー俘虜長(=ジャック・トンプソン)に、その板挟みとなるロレンス、それをかき回そうとするセリアズと、錯綜する人間関係のなか、一縷の光が見えてくる

冒頭から凄まじい
ハラ軍曹ロレンスを叩き起こして連れた先には、裸で縛られた男2人。朝鮮人軍属のカネモト(=ジョニー大倉)が、オランダ人捕虜カール・デ・ヨン(=アリステア・ブラウニング)を手当てして親密となり、夜這いをしかけたというのだ
ハラはカネモトの家族に恩給が出るようにと、独断で切腹を命じるのだ。その場はヨノイが止めることで、処分は延期されるが、前線に近い捕虜収容所とはいえ、ジュネーヴ条約を無視した日本軍の蛮行が印象づけられる
後にカネモトは正式に切腹を申し付けられ、慣れない介錯人が止めを刺せない惨状も描かれた。そして、それを見せつけられた被害者のカール・デ・ヨンはショック死してしまう
「彼らは過去に生きている」。奇妙なほど武士の真似事に励む、日本軍の異様さが際立つ

しかし、カールの死はロレンスに火をつけ、セリアズはヨノイの命じた“行”を破って捕虜たちに弔意を示させ、回り回ってハラの「クリスマス・プレゼント」を呼ぶ
そして、軍事情報を巡ってヨノイヒックスリーを処刑しようとした時、セリアズがヨノイを抱きかかえてキスする有名な場面が!
何かが人と人を結びつけて、静かに変えていく……こんな、しみじみするメリークリスマスがあるだろうか
セリアズの苦い少年時代、障害者に辛い当時のイギリス社会や寄宿舎のイジメも描かれたりと、日本映画という枠組みを収まらず、本当の意味で国境を越えるものとなっている
セリアズはヨノイにとって悪魔でも天使でもある……ここまでデヴィッド・ボウイの魅力を引き出せた作品もないだろう




『日本解体 「真相箱」に見るアメリカの洗脳工作』 保阪正康

わりと正論



GHQはいかに日本人を情報操作しようとしたか。ラジオ宣伝番組から読み解くアメリカの洗脳工作

他の著書では護憲派よりに見えたけど……
ポツダム宣言受諾から占領軍の統治が始まっていた1945年12月9月に、眞相はかうだの番組が日本放送協会(現・NHK)から放送された。脚本を書いたのはGHQのスタッフで、満州事変以降の軍国主義の実態をドラマ仕立てで暴露するものだった
それに続いて始まったのが、眞相箱一般の日本人から質問に答えるという形式の番組だった。もちろん、質問も答えもGHQのスタッフか、その指示を受けた関係者が作成していた
その目的は、(アメリカから見た)太平洋戦争の要因となった軍国主義精神の排除に、新憲法の定着、反米感情の鎮静にある
"あの戦争”の責任を、一部の軍国主義者に求め、天皇の戦争責任を免責し、アメリカの高度な科学技術と物量には敵わないと思わせることだった
ラジオのテープは日本に残っていないが、本書は書物として残る「眞相箱」から統治下の情報工作を追及する


1.実は受け入れやすかったGHQ史観

意外なことに、GHQの語る近代日本への評価は、司馬史観に近い
黒船来航から始まる明治維新から、日清・日露戦争までの国造りを褒め、それ以降の、特に満州事変以降の軍国主義化を批判する
連合国も植民地を持つ国が多いせいか、「帝国主義」や「侵略」に対する定義もぼかしていて、自分たちにブーメランが返ってこないように配慮している。手が込んでいるのは、「帝国主義」に関する質問に、アメリカからではなくイギリスの百科事典などから引用すること。後で突っ込まれないように、「それイギリスの意見だから」と言い逃れできるようにしているのだ
「侵略」に関しても、戦争末期のソ連の参戦が絡むので深く追及していない
太平洋戦争に対する評価では、個々の日本人兵士の勇敢さを湛えつつも、上層部が愚かだったことを強調。戦争の責任を一部の軍国主義者に求めて、天皇や国民を除外している。自分たちの思うとおり誘導するために、当時の日本人が受け入れられやすい史観を提供しているのだ
実際のところ、GHQの用意した史観は、保守派を含めて日本人の大半に受け入れられているように思える。こうした史観がすぐに浸透した背景には、戦中の大本営発表が現実とあまりに乖離して、欲していた情報をGHQから供給されたためなのだろう


2.9割の真実と巧妙なプロパガンダ

GHQの史観は一見、かなり妥当に思えるのが巧妙で、多くを事実から引きながら、特定の結論へたどり着かせるために細部を曲げたり、噂としてエピソードを挟んだりする
最大の問題点は、民間人含む無差別爆撃、特に原爆投下についてで、アメリカでの論争を紹介しながらも、「戦争を早く終わらせるための止む得ない」と結論する。そして、一番の文明国であるアメリカが核爆弾を最初に手にしたことにより、世界の平和が保たれるという自己中心的な主張が展開されている
「これを戦争を避けるために使う」という考え方も、冷戦時代の核戦略に通じるものがあるのだ


著者の保阪正康は、半藤一利と絡みが多い人ながら、単独の著作だと護憲派の主張が強かったのだけど、本書では「押し付けられた歴史観でいいのか」と右派のような問題提起の仕方をしているのが面白い。これはただ親米の保守派はおろか、既存の護憲派をも脅かすものであり、場合によっては自らに襲いかかるブーメランになりかねない
他国や他人の意見ではなく、自分で"あの戦争”は、“あの時代”は何だったのか、と問いかけて、はじめて日本人の歴史観はもちうるし、それを踏まえて判断を下せる。著者自身の歴史観はともかく、このメッセージは普遍性があると思う
本書は「眞相箱」の作為を紐解くことで、プロパガンダの巧妙な手口に触れられ、歴史はある指向性をもって作れてしまう事実を教えてくれる


*23’4/5 加筆修正



『大東亜戦争、こうすれば勝てた』 小室直樹 日下公人

タイトルと結論が真逆という


大東亜戦争、こうすれば勝てた (講談社プラスアルファ文庫)
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大東亜戦争は勝てない戦争ではなかった!? 保守系の論客二人が探す敗戦の原因と日本組織の欠点

驚いたことにタイトル通りの内容であった(爆
保守系社会学者のレジェンド、小室直樹と、核武装論者の日下公人の対談なのだが、その射程が政治、戦略レベルから兵器開発、戦術論まで広範にわたる
両者とも細かい兵器の性能にまで精通し、もしこれが何年にまで間に合っていたら、あるいはこの機種に資源を集中させていたら、といった一見、架空戦記じみた話にもなる。とんでもないミリオタミリタリー知識なのである
しかし、話の根本は架空戦記にとどまらない。いわばそれを可能にする、政治・戦争の意思決定、開戦から講和にいたるグランドデザインの欠如を両者は指摘しているのだ
指導層の無責任体制は戦後も官僚によって引き継がれていて、怜悧で無私でなければならない組織が共同体化し、前例を固守して同じ失敗を繰り返す。現代にも通じる日本社会の病癖なのだ

戦術面で批判されているのは、海軍の艦隊決戦主義と艦隊保全主義の共存である
この相反する二つがミッドウェー海戦でなけなしの空母4隻壊滅の悲劇を招いた
パールハーバーにおいて二次攻撃しなかったのは、米空母2隻の位置が確認できず反撃を恐れたからとされるが、逆にここでケリをつけられればミッドウェー作戦は必要なかった
ミッドウェー作戦でもアリューシャン列島に向かわせた二隻の空母を参加させれば、作戦の幅も広がった
物のない国の癖なのか、決戦すると言いながら、その時には「まだ決戦は先だ」と艦隊の消耗を避けてしまう。それは日露戦争から続く悪弊だった
奇抜なのは、そもそもパールハーバーの奇襲は必要だったのかという話
従来の日本領海近くでの艦隊決戦でも、相手に空母による航空攻撃の有効性を知られていないのだから、奇襲の汚名を着ずにかなりの戦果を挙げられる
ガナルカナルまで手を出すのは無駄であり、石油が出るインドネシア西部と本土とのラインを確保しつつ、迎撃に専念すればいい
アメリカ海軍の増強が間に合うのは1944年以降なので、それまでに優勢を確立して早期講和にはかるのが、ベストの戦略だった
もっとも、アメリカがそれに応えてくれるほど甘ちゃんとは思えないが、開戦時に終戦までの見通しをつけていないと始まらないのだ

政治面では、何のための戦争かがはっきりしていない点を責められる
開戦の詔勅には「仕方なく自衛のための戦争をする」にとどまり、大東亜共栄圏は開戦後の1942年1月、首相の施政方針演説で初めて明らかになった。完全な後付けなのだ
これでは欧米の植民地主義を責めることはできない
二人が注目するのはインドの独立運動家チャンドラ・ボーズの存在であり、対イギリスに対しては彼のインド独立を支援する形で協力すれば、名分は立つ
アメリカなどはフィリピンの独立運動を苛烈な弾圧で潰した過去はあれど、第二次大戦前にその独立を準備しており、マッカーサーは“フィリピン”の陸軍元帥となっていた
しかし、そうした戦略の前提は、日本が占領地を自発的に独立させることだ。小室氏は朝鮮すら李王朝の王族を戻す形で独立させるべし、としており、こうしたことを当時の日本で実行できたかは怪しい
土地が富の源泉としてしまうのは農耕民族の習性であり、そうした島国の住人が海外に領地を作ってはいけない。戦争を善悪ではなく、国益の観点で問い詰めてここに至るというのが、本書の面白いところ。極端な仮説、試論も突き詰めれば、核心を突くのだ

【配信】『ザ・パシフィック』 第9話・第10話

ついに沖縄戦、そして故郷への帰還
シリーズ的には、知られざる激戦地ペリリューを取り上げた点に注目



<第9話 沖縄 Okinawa>


1945年5月ユージーン・スレッジは、沖縄にいた。熱帯のスコールのような雨に悩まされ、塹壕を掘りだそうとすると日本兵の死体が出てくる。すでに戦闘が始まって一月が経ち、島全体が墓場となっていた
非戦闘員を巻き込んだ戦いにスレッジたちの精神も限界に達し、冷徹な兵士だった“スフレ”すら悲惨な状況に激高。新兵の錯乱を誘発し、戦死者を出してしまう
日本兵の皆殺しを誓うスレッジだったが、臓腑をむき出しにした女性を前にはその思いを覆さざる得なかった

原作にない演出シーンとして聞いていた、妊婦が自爆攻撃を仕掛ける場面民間人の脱出を盾に一斉掃射するという悪辣な作戦となっていて、日本軍の非人道性を印象づけている
しかし、こうした自爆攻撃は米軍の資料にも残っていないとか
製作者たちは地獄の戦場を連想させるものとして、現在の対テロ戦争、民間人の群れの中に、あるいは盾に戦うISなどを参考にしたのではないだろうか
米軍が日本兵とオキナワ人を分けて捉えているのも特徴的で、米軍の駐留が続く沖縄への配慮として、住民を保護したという部分を強調しているようにも思えた
最後の場面は「日本に新爆弾が落ちた」という話題から「国に帰る」シーンにつながり、上空にはB-29の編隊が颯爽と飛び去って行く。『バンド・オブ・ブラザーズ』を含めて、もっとも政治を感じる回だった


<第10話 帰還 Home>

1945年8月15日、日本の降伏が伝えられ、海兵隊の戦争は終わった。ボブ・レッキーはセントルイスの病院で、ユージーン・スレッジは沖縄でその知らせを聞いた。スレッジは列車から降りる戦友たちを見送りながら、故郷で親友シドの出迎えを受ける。心配していた父母たちの歓迎を受ける彼だったが、ペリリューや沖縄で受けた心の傷を引きずらざる得なかった

三人の主人公は三者三様の帰還をした
ロバート・レッキーはペリリューで重傷を負ったものの、終戦後はそのまま記者として復帰。向かいに住む幼馴染のヴェラに、海兵隊の制服を着て口説き、戦争経験のないライバルを退ける。戦争に人生の大事な時間を捧げた人間にとって、これぐらいの役得は受けるべきものだろう
ジョン・バジロンは硫黄島で戦死し、妻のリーナ・バジロンは彼の実家を訪ねる。気丈な家族たちだったが、リーナが差し出す「名誉勲章(Medal of Honor)」を前に涙してしまうのだった
ユージーン・スレッジ結婚や就職に軍歴を持ち出すことに、引け目を感じてしまう。海兵隊で教わったことを聞かれると「ジャップを上手く殺す方法だ」
戦場を経験した誰しもが眠れぬ夜を送るものだが、彼はひときわ強かった。父エドワードと好きだったハト撃ちに出かけても、泣き崩れてしまう。作中で復調は描かれないが、史実ではバードウオッチングを父に勧められ、大学では鳥類の研究に生きる目的を見出したという
ラストには、登場人物のその後が流された。ほとんどの人が戦争から市井の人に立ち帰っていたのだった


シリーズ全体を総括すると、『バンド・オブ・ブラザーズ』(以下BOB)と比べれば、ひとつの小隊ではなく三つの主人公の視点からそれぞれガナルカナル、ペリリュー、硫黄島、沖縄と巡っていくので、自然と各主役中心のドラマにならざる得なかった
特にジョン・バジロンに関しては、切手になるほどの英雄であり、戦債キャンペーン中に有名女優と浮名を流すなど、兵士の生活中心のBOBよりも派手な演出が目立った(やけに濡れ場も多い!)
証言者が次々と他界する時代となれば、今後の戦争作品は一種の時代劇になっていくのだろう

海兵隊と日本人との対峙は、序盤は万歳突撃する理解しがたい敵として登場し、9話の沖縄戦においてようやく民間人や捕虜として直に接する。ヨーロッパ戦線のナチスに騙されたドイツ人という構図に対して、“オキナワ人”という存在を持ち出してなお消化できず、艦砲射撃や爆撃で被害を受けた女性に対してスレッジは抱き締めざる得なかった
原爆で日本を早期降伏に追い込んだという史観を保ちつつも、戦時に多大な犠牲を払い、戦後は米軍の基地が集中する沖縄に対して、それなりの敬意を払おうという製作陣の意思が感じられた


前回 【配信】『ザ・パシフィック』 第7話・第8話

関連記事 【DVD】『バンド・オブ・ブラザーズ』 第1話・第2話
     『ペリリュー・沖縄戦記』(原作本)

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【配信】『ザ・パシフィック』 第7話・第8話

「座れるときに立つな 寝転がれるときに座るな 寝られるときに寝ろ」


<第7話 ペリリュー 後編 Peleliu Hills>

空港は制圧したものの、ペリリューの戦いはまだ終わらない。山にはまだ日本軍が健在であり、出発するスレッジの第5連隊は、ボロボロになった第1連隊とすれ違う。一方、ジョン・バジロンはまだ戦債キャンペーンに捕まっていたが、息抜きのゴルフの間にもガナルカナルの戦いと戦友たちの顔が脳裏をかすめるのだった

今回は非常に凄惨な描写が目立つ。火炎放射による生きたままの丸焼き、手りゅう弾の破片で顔がボロボロが序の口で、言語を絶する光景が繰り広げられる。まったくもって尋常ではないので、今さらながら苦手な人は注意されたし
僚友たちが倒れ、尊敬する隊長ホールデン大尉が戦死し、頼みの鬼軍曹ヘイニーまでが茫然自失する現実を前に、スレッジの心も病み、日本兵の金歯を取ろうとする。それを止めたのは、いつも金歯をくすねているスナフ!
日本兵の死体で遊んでいた彼だったが、スレッジが自分と同じ狂気の世界に入るのを、よしとしなかったのだった


<第8話 硫黄島 Iwo Jima>

ジョン・バジロンは戦債キャンペーンに憂鬱になっていた。ヴァンデリクス中将新兵訓練への復帰を依頼し、キャンプ・ペンドルトンへ赴任する。慣れない新人たちに猛訓練を課すなか、婦人予備隊のリーナ軍曹と出会う。最初は有名人扱いされて嫌味を言われ続けるバジロンだったが、朝食にフレンチトーストを共にしたことから急速に仲を深める。バジロンは訓練した海兵隊ともに、硫黄島へ向かうこととなり、二人は結婚するのだが……

スレッジが冒頭に亡きホールディンの本を拾う場面があるが、ほぼジョン・バジロンの回である
硫黄島の戦闘は残り15分間に割り当てられ、どういう戦闘かは解説されない。映画化も何度かされているので、改めて説明するまでもないということだろうか
バジロンは鍛え上げた重機関銃兵を従えて、苦戦する戦線を突破。いくつものトーチカを破壊してみせる。しかし、銃撃を腹にくらって大の字に倒れてしまうのだった
ラストは未亡人となったリーナが浜辺を眺める場面で終わる。86歳まで生きた彼女は再婚しなかったそうだ


次回 【配信】『ザ・パシフィック』 第9話・第10話
前回 【配信】『ザ・パシフィック』 第5話・第6話

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【配信】『ザ・パシフィック』 第5話・第6話

第一海兵師団が唯一、壊滅認定を受けた戦い


<第5話 ペリリュー 前編 Peleliu Landing>

戦債キャンペーンのために帰国したジョン・バジロン軍曹は、女優ヴァージニア・グレイと親しくなり、有名人の階段を上り始める。そのホテルに出征する弟が姿を現すと、「いいところを見せようとするな」と忠告する。そのころ、迫撃砲の訓練を終えたユージーン・スレッジはようやくソロモン諸島のパヴヴに到着。1944年9月に、ロバート・レッキーの第一連隊らとともにペリリューの戦いに臨むのだった

ペリリューの上陸戦はノルマンディーもかくや、という激戦である
日本軍のトーチカの前に海兵隊が死屍累々を築き、上陸艇からの重機関銃も艦砲射撃も目立った効果はない
日本の九五式軽戦車も、歩兵の突撃を支えて活躍する。が、海兵隊の中隊ごとに配備されたシャーマン戦車には一蹴されてしまう。さすがにこれは手合いが違い過ぎたか(苦笑)
新兵であるスレッジは、先輩兵士のスレフにこき使われるが、戦場では一転して頼りになる。その後、そのスレフが日本兵の死体から金歯を抜く光景を見てしまう。あまりに戦場へ適応してしまい、人としての倫理が飛んでしまっているのだ


<第6話 ペリリュー 中編 Peleliu Airfield>

一夜明けて海兵隊は、ペリリューの空港確保に向かうことになった
しかし、日本軍は廃墟のビルから待ち伏せ攻撃を行い、地下に隠れた伏兵が背後から銃撃してくる。レッキーの中隊は激しい砲撃に進路を阻まれ、大隊本部への連絡も途絶してしまう
レッキーは仲間を救うべく、衛生兵と空爆を要請するために無線を探すが、その味方の空襲を受けて負傷し気絶してしまう。レッキーは担架に運ばれて収容され、彼の戦争は終わった。瀕死の僚友が生きていたことだけが救いだ

冒頭では、スレッジの故郷であるアラバマ州モービルに、友人のシドニーが帰郷。スレッジの両親へ、入れ違いになった複雑さを隠し切れずも気丈に元気づける
実際のスレッジは狂気の戦場でぎりぎりの状態だった
戦闘の激しさもさることながら、前線で夜襲を警戒しているときに味方の一人が発狂! やむを得ず上官は頭を殴って黙らせる
一夜明けると、殴った兵士は死んでいた……
物資が豊かなイメージの米軍だが、ペリリュー戦は水を確保するのも大変で、死んだ味方の水筒を取ろうと躊躇する場面も。日本軍が水源に毒を投じたりと、まさに地獄である


次回 【配信】『ザ・パシフィック』 第7話・第8話
前回 【配信】『ザ・パシフィック』 第3話・第4話

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【配信】『ザ・パシフィック』 第3話・第4話

( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!


<第3話 メルボルン Melbourne>

1943年1月ロバート・レッキージョン・バジロンが所属する第1海兵師団は、オーストラリアのメルボルンで休養することとなった。日本軍の侵攻を食い止めたとして市民から大歓迎を受け、外出しては酒を食らい現地の女性にもモテモテ。レッキーは列車で出会ったギリシア系移民のステラを口説き、その実家へ行くが…

オーストラリアは移民の国であり、ギリシア系の移民がコミュニティを作っていた。連合国の一員として、オーストラリアも第二次大戦に参戦しており、太平洋ばかりでなく、ビルマの戦線でも戦っている
ステラの母親はギリシア系移民の子たちの死に悲しんでおり、ステラは悩んだあげくにレッキーとの進展を諦めてしまうのであった。ステラの理屈はおかしいものの、戦時下のプレッシャーなのだろう
一方のバジロンはガナルカナルの活躍で勲章をもらったつながりで、戦時国債を集めるパーティのために帰国を命じられる。一緒に帰りたかった戦友の見送られて、飛行機に乗る姿が寂しい


<第4話 グロスター岬/パヴヴ Gloucester/Pavuvu/Banika>

メルボルンから第1海兵師団は、ニューブリテン島のグロスター岬へ。聖歌を歌いながらクリスマスを迎えたものの、島のジャングルとゲリラ豪雨に苦しみ、日本軍との戦いで戦友二人を喪う。さらにソロモン諸島のパヴヴ(ラッセル諸島)では、軍靴が抜けないほどのぬかるみで精神病になる者が続出ロバート・レッキーも情報部の上司のイビリで、夜尿病にかかってしまうのだった

ラバウルのあるニューブリテン島を確保したかと思いきや、その東のソロモン諸島へも出張と海兵隊も忙しい(日本軍はもっと悲惨だが…)
戦友の死と自殺、合わない上下関係でストレスが頂点に達したレッキーも、夜尿症を患って診療所のあるバニカに送られる。普通の病棟は海軍が優先され(海兵隊の地位は低い!)、カミソリとベルトも取り上げられる精神病棟へ入る羽目に
今回は戦争による精神病がテーマであり、心を壊された人々が何人も登場する。中でも戦友だったギブソンは深刻で、隊へ復帰するレッキーに煙草のお礼を言いつつ、「楽に済んだらいいな。狙撃手に撃たれるとかなら、苦しまない」と心にもないことを言ってしまうのだった
『ザ・パシフィック』では、戦争がいかに精神を病ませるかに、話数が割かれているそうだ


次回 【配信】『ザ・パシフィック』 第5話・第6話
前回 【配信】『ザ・パシフィック』 第1話・第2話

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『山本五十六』 阿川弘之

阿川佐和子のお父さん


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山本五十六 (下) (新潮文庫 (あ-3-4))
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日米戦争に反対しながら、その口火を切らざる得なかった山本五十六とはいかなる人物だったのか。その出生からブーゲンビルで戦死するまでを詳細に描く
膨大な取材と資料を駆使した山本五十六の記録文学である
海戦における航空母艦を中心とした機動戦術の優勢を確立した名将である一方、戦前においては日米戦争に最後まで反対し続けたことでも知られているが、本作で強調されるのは生々しい人間としての姿
愛人である梅龍の千代子との逢瀬、「海軍を辞めたらモナコでカジノでもやる」というほどの博打・勝負好き、どこでも逆立ちして見せる茶目っ気と、戦争のドキュメント番組などからは想像しにくい、軽快な人柄が偲ばれる

上巻では、ロンドン軍縮会議など‟条約派”軍人としての活動が中心となる
1929年のロンドン軍縮会議は、日米英での建艦競争を阻止すべく、特にアメリカの台頭を恐れるイギリスが主導で行われた。日本は西海岸側の米艦隊を牽制できる「対米7割」を主張してアメリカと対立し、イギリスは条約の決裂を恐れた
山本は最初、大使付きの中佐という立場で参加しつつも、各国の大物にその存在を認められる。作中では山口多聞と強硬に「対米7割」を主張したことは描かれないが、条約そのものをその工業力の格差からアメリカを縛るものとして評価していた
1936年には海軍次官に就任。海相となった米内光政とのコンビで、陸軍参謀部に触発された軍令部の政治化を抑え込み、害しかない日独伊三国同盟の実現を阻止しようとした
ただし作者は軍人が政治に口を挟まないという海軍の良識が、この非常時において大人し過ぎたのではないかとも指摘する

下巻は真珠湾作戦の計画から、ブーゲンビル島で散るまで
真珠湾攻撃に関しては、本人以外のほとんどの人間から反対を受ける。しかし、日米戦をするならハワイ作戦は必要不可欠として、山本は自身の進退をかけて突っぱねる
山本からすると「南方に進出している間に、東京が空襲されたらどうするのか」という懸念があり、後のミッドウェー海戦につながる着眼点である
ただし、航空母艦を撃ち漏らしたにも関わらず、航空隊が当然あるものと思っていた第二次爆撃を決行せず、ハワイの軍事施設の多くが残存した
ミッドウェーの曖昧化していった作戦目的といい、艦隊保全主義で攻撃に徹底しきれない海軍の性質が異端児の山本五十六にすらあったといえるし、いかにも日本人らしいあっさりさだと作者は評する
話は山本の死だけで終わらず、遺体回収から国葬、知人や近親者たちがいかに振舞ったかまでに及ぶ。赤裸々な記述は訴訟騒動まで起こしたそうだが、後世に語り継がれるべき労作である


関連記事 『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(半藤一利)

『ペリリュー・沖縄戦記』 ユージン・B・スレッジ

他のFCブログへコメントしようとしたら、「不正な投稿」だと言われて拒否られてしまった
相手さんのブログにNGされてるわけではないとはずなので、単なるバグだと思うのだけど……


ペリリュー・沖縄戦記 (講談社学術文庫)
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アメリカ人から見た太平洋戦争は、いかなるものだったのか。ガナルカナル、ペリリュー島、そして沖縄の激戦地を体験した海兵隊の一兵士の記録
著者は戦時に志願兵として海兵隊に入り、戦後は生物学の教授になった人。異色の人物に思われるかもしれないが、民間人が戦争に召集されるのが普通の時代では、こういう経歴の方はたくさんいたようだ
所属したのは第一海兵師団であり、『バンド・オブ・ブラザーズ』のスタッフが製作した『ザ・パシフィック』でも著者の体験が中心的な位置を占めている
本書では敵味方が悪鬼と化す、戦場の地獄が余すことなく書かれている。当時の著者は、友軍兵士の死体に残酷な悪戯をされたことをきっかけに日本軍への同情を無くすが、特に日本人を諸悪の権化のように描いているわけではない。人間を極限の状態に追い込んでその尊厳と人間性を奪い、最後には人生そのものを奪ってしまう戦争そのものへの嫌悪が全体を包んでいる

戦史本などを読むと、1944年以降はアメリカが圧倒的な物量を背景に圧勝し続けたように思えるが、最前線の一兵士から見れば日本人同様で生き地獄に放り込まれるようなもの
上陸戦では生還できる確率は二割から三割と言い聞かされ、補給が追いつくまでは物資が欠乏し、油混じりの水で凌がなくてはならない。いくら兵站が整っているといっても、相対的なものなのだ
ペリリュー島の戦い以降、日本軍は淡白な万歳突撃から、島全体を戦場とする縦深陣地を構築して、粘り強く出血を強いる作戦に転換しており、海兵隊も立ち往生せざる得なかった。太平洋戦争末期でも、全方面で日本軍が一方的な敗北だったわけではなかった
ペリリュー島の十倍以上の規模の沖縄では、さらに異常な光景に遭遇する。敵味方の死体を葬る機会がないために、戦場に折り重なるように放置される
塹壕を掘ろうとしたら、そこには腐った死体が埋もれていて、大量のうじ虫が沸いており、作業中の兵士の衣服に入り込む!
敵味方の砲撃に疲弊した兵士たちは、精神に異常を来たして後送されていく。統計的に火力に勝るといっても、前線の兵士からすれば日本側の砲火も強力だったようだ
異常が日常化した体験は、戦後も心に深い傷跡を残した。勝利した戦争にすら、栄光はないのである。その一方で、著者は「住むに値する良い国ならば、その国を守るために戦う価値がある」という言葉も遺している


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『敗戦真相記』 永野護

きな臭い人でもあるらしい


敗戦真相記―予告されていた平成日本の没落
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日本はなぜ負けたのか、これからどうすればいいのか。敗戦直後に一経済人が語った戦後日本の出発点
著者はFSSの作者ではなく(笑)、渋沢栄一の秘書をしたのを皮切りに証券会社などの取締役を歴任、戦中・戦後に衆議院議員となり、第二次岸内閣で運輸大臣に就任した政財界の要人だ。弟たちも政財界で活躍したことから、「永野兄弟」の長兄として名高かったという
本書に元になったのは、なんと1945年9月に行われた講演!
終戦直後の混乱冷めやらぬ間に、冷静に敗戦の過程を分析し、ポツダム宣言から想像される日本の将来を驚くべき正確さで予見している

まず敗戦の原因に関しては、国策の基本理念からして間違っていたと指摘
自給自足主義を目指したのが間違いで、満州国で立派な近代都市を作っても、現地民の人人心を得ることはなかった。永野も日本語が上手い中国人の知人から、「ロシアと戦争になったら、ロシアにつくよ」と言われ絶句したという
いかに名分を語ろうと、植民地である以上は本国の利益が第一であり、現地人の福祉は二の次以下になるのだ
フィリピンにおいても、山下将軍が「フィリピン人の協力をまったく得られなかった」と語り、アメリカへつくものが多かったという。日本がアジアの解放に貢献した云々は、敗戦直後に否定されていたのである
戦争指導においても、陸海軍が様々な局面で張り合って、松根油のために松の木を争ってしまう。総力戦とはほど遠い状況証拠がいくつも示されて、ため息が出る
極めつけは、トロツキーの論文『噴火山上の日本』の引用。「日清戦争は日本が支那に勝ったのではない。腐敗せる清朝に勝ったに過ぎない。日露戦争は日本がロシアに勝ったのではない。腐敗せるロマノフ王朝に勝ったに過ぎない。要するに、これは一つの後進国が、さらに一層遅れた後進国に対する勝利に過ぎない」「日本は日清日露の成功に思い上がり、東洋制覇の事業に手を出し始めたが、これは早晩、アメリカかソビエトロシアに対する衝突を招くだろう。日本の生産と科学は果たしてこの大戦争に用意ができているかどうか。日本国民の神秘主義と精神論は、この大戦争によって冷酷にテストされるに違いない」

焼け野原となった日本については、ポツダム宣言から国の建て直しを考える
日本は武装解除されたが、国家が分断されたドイツよりはマシ。むしろ、国家財政の過半をもっていった軍部がいなくなったことで、国民の教育と福祉に意を払えるとする
戦争犯罪人については、アメリカはパールハーバーの開戦責任にこだわるのは仕方なく、日本国民と軍部を分ける発想に注目。無条件降伏ではないことを強調する
進駐軍の方針が他国に戦争を仕掛ける軍勢力の除去と民主主義の確立を条件とするのなら、永野は日本にとって悪くない話と考えているのだ。敗戦革命的な発想自由主義者の経済人から飛び出すのは意外だ
ポツダム宣言の条文を読み直して行くと、日本国憲法の下地になっていることが分かる。良かれ悪しかれ連合軍の政策が元になっているのだ
日本が純粋な農業国でやっていくのでは、江戸時代の人口三千万人しか養えない。肥料も海外からの輸入が必要なので、必ず外国と付き合わざる得ない
日本には人が余っているので、単純な工業製品ではなく複雑な工程を経る時計などの精密機械の製造を目指すべきとする。高付加価値の製品を輸出して、物のない日本は必要なものを輸入するしかない。高付加価値産品の輸出は今でも求められていることで、現代日本の出発点は焼け野原の現実にあったのだ
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