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【漫画】『戦争は女の顔をしていない』 小梅けいと

今こそ、読むべき漫画かと




「瞠目」「脱帽」。富野監督の推薦文が帯にあって、衝動買いしていた。それでしばらく積まれていたのだが(苦笑)、こういう情勢なら手に取らざるえまい
原作者のアレクシエーヴィッチは2015年にジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞したベラルーシの記者で、本作以外にソ連のアフガニスタン侵攻チェルノブイリのレポートで知られている
原作では第二次世界大戦、それも熾烈を極めた独ソ戦に従軍した十代の女性兵士たちの証言を集めていて、2019年から漫画配信サイトComicWalkerにてコミカライズされていたのだ
作画を担当されたのが、ライトノベルの長編シリーズ『狼と香辛料』で同じくコミカライズされていた方で、人物の描写も扱っているテーマのわりに柔らかい
しかし、そのおかげで日常を普通に送っていた女性が、戦争に巻き込まれていき、ほんの束の間に感じる生の喜びがよく表現されている

独ソ戦において、男性は徴兵されたが、女性に関してはあくまで志願制だった。それでも、生まれ故郷が戦場になる大祖国戦争、防衛戦争という状況が、彼女たちを戦場へ足を向かわせた
本作の特徴は、なんといっても臨場感。戦記物になりがちな題材だが、戦況や兵器の説明などはなく、戦場において何に出会い、何に直面したかに集中している
一番象徴的に思える台詞は、「戦争で一番怖かったのは、男物のパンツを穿いていることだよ」。軍隊では女性が従軍することを想定していないので、下着はすべて男性用生理のときは止めようがなく、行軍中にぽたぽたと股から血がしたたってしまう
高射砲兵のクララの章では、男の兵士が干しているシャツを盗んで、脱脂綿がわりに使うエピソードが紹介されている
もともと貧しいうえに戦争で焼かれた故郷に対して、進軍するヨーロッパでは庶民がコーヒーを飲んで嘆いている格差は、今のロシアとヨーロッパにも横たわるもの。最初の洗濯部隊の章でドイツからミシンを戦利品として持ち帰るのも、そうした文脈で受け取らねばならない
ネットメディア発のせいか、視点となる登場人物が変わったときが分かりにくかったり、もとがインタビュー集ゆえ語りの比重が多いところはあるが、戦争が人間をどう扱うか、どう変えていくかを考えさせられる作品なのである


『ザ・キープ』 F・ポール・ウィルソン

映画はマイケル・マンが監督だったのに、原作を台無しにした駄作とか。怒りの作者が映画監督を殺す短編小説を書いたらしい(爆)




1941年、ルーマニア。トランシルヴァニア地方の古い城塞へ、ドイツ軍小隊が派遣された。隊を率いるヴォーマン大尉は、壁に飾られる奇妙な十字架の存在を不審に思うが、その不安は的中。宝物探しに出た部下が地下の壁を崩したときに変死してからは、毎日のように喉を引き裂かれた兵士が発見されるように。本国へ増援に呼ぶと現れたのは、ヴォーマンと因縁深きケンプファー少佐親衛隊(SS)二小隊。さらに古城へ吸い込まれるようにユダヤ人の歴史学者クーザ娘マグダ謎の男グレンが集まって……

吸血鬼物と思いきや、予想外にハッテンしていく伝奇小説であった
ときは第二次世界大戦の真っただ中、ナチス・ドイツの全盛期。まさに悪がヨーロッパを包もうとする闇の時代を舞台に、闇の帝王が目覚めて人々を襲い対立させていくという、ダークにダークを重ねるモダンホラーなのである
吸血鬼に対抗させるべく、ユダヤ人の学者クーザは古城へ連れてこられるが、彼にとって吸血鬼もナチス・ドイツも同じ悪。いや、ユダヤ人を絶滅させようとするナチスのほうが絶対悪
彼は吸血鬼をしてナチスとヒトラーを潰そうと画策する。この悪をもって、悪を制しようとする攻防が上巻までの醍醐味である

下巻ではこの悪対悪の構図がダイナミックに崩れていく。ホラーの壁が崩れて、ヒロイックファンタジーが姿を現わす
闇の帝王モラサール(ラサロム)赤毛の男グレン(グレーケン)は、<混沌>と<光>を代表する神話的存在であり、その戦いは吸血鬼対人間の枠を超えての超人バトルへ突き進んでいく
ここまで来ると、ドイツ軍だナチス親衛隊だのは、塵芥のごとし(苦笑)。世界の存亡をかけた決戦がここで果たされるのだ。たまげたなあ
上巻であれだけ描かれたヴォーマンとケンプファーの確執が、斜め上の決着をみてしまうのに良くも悪くも圧倒されてしまったが、これもアメリカの作家が書いたゆえなのだろう
下巻の展開は人を選ぶが、高いレベルのファンタジーなのは間違いない



なんと、映画はDVD化されていない! どんだけ酷かったというのだろう

【BD】『フューリー』(2014)

武装SS絶対殺すマン




1945年4月。ドイツ本土に乗り込んだアメリカ軍は、総動員体制を引くナチスドイツの必死の抵抗を受けていた。副操縦士を失ったフューリー号のドン・コリアー軍曹(=ブラッド・ピット)のもとに、補充の新人ノーマン(=ローガン・ラーマン)がやってくる。戦場に慣れない彼に、ドンをはじめ先輩の戦車兵は荒々しく接する。激しい戦闘である街を陥落させたとき、ドンとノーマンは女性二人が潜む建物に潜入する。誤解が晴れた後、ノーマンと若いドイツ人の娘エマ(=アリシア・フォン・リットベルク)は仲良くなるが……

ナチスドイツの降伏間近での死闘を描いた戦争映画
戦車ゲーム『World of Tanks』とコラボして、パッケージの背表紙にティーガー戦車との対決が謳われていたことから、戦車戦が主体と思いきやそうでもなかった
ティーガー戦車との対決は中盤にあるものの、三台のシャーマン戦車でかかって一台のティーガーを仕留めるという、あまりにスペックに忠実な結末(苦笑)に終わる。それだけティーガーの脅威がアメリカ人の中で神話化しているのだろう
戦車同士の戦いはティーガー戦に限られていて、森に隠れる伏兵、敵がこもる市街戦、十字路での決死の攻防と、多彩な戦場が用意される一方、肉体が飛び散る戦争のえげつなさがしっかり描かれていて、『プライベート・ライアン』のドイツ本土バージョンともいえる作品なのである

戦場に慣れすぎた男たちと新人との葛藤という、戦争映画につきまとうテーマに本作は真っ向から取り組んでいる
対戦車兵器「パンツァーファウスト」を持つ女子供を容赦なく撃つことを要求され、ノーマンは必死に抵抗するが、ドンはチームや味方が生き残るためにノーマンを強引に引きこんで行く
転機になるのが、陥落した都市で知り合った娘エマと束の間に愛し合ったことで、占領した都市にドイツ軍が砲撃したことから、ノーマンは愛する者を奪った相手として武装SSを憎むようになる
その後は、完全にチームに溶け込んでドイツ兵に容赦なく応戦していくのだ
相手は武装SSだから遠慮する必要はない……そんな論理を見せつつも、ラストには軽いどんでん返しが待っている。戦車の下に逃れたノーマンは、相手の若い兵士に発見されるが、その慈悲によって見逃されるのだ
仇として殺しまくっていた相手によって、生を得てしまった。この矛盾を含めることで、戦争における正義の観念、戦車隊内の熱い友情と熱狂を相対化してしまう
ティーガー戦がリアルな反面、ラストの戦闘がヤクザ映画のような粘りを見せてしまうのがアレだったが、いろんな見所のある良作なのである


タイトルパクリの映画 → 【DVD】『ザ・フューリー 烈火の戦場』

『ヒンデンブルク炎上』 ヘニング・ボエティウス

墜落原因は今も謎


ヒンデンブルク炎上〈上〉 (新潮文庫)
ヘニング ボエティウス
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ヒンデンブルク炎上〈下〉 (新潮文庫)

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1947年。ヒンデンブルク墜落事故に巻き込まれたスウェーデン人記者ビルガー・ルントは、船内で知り合った女性マルタを訪ねた。ルントは事故で死んだと見なされ、顔を整形して別人の人生を送っていた。ヒルデンブルクの一件が忘れられない彼は、元操舵手ボイセンから事件の真実を得ようとフリースラントの島へ向かう

墜落したヒンデンブルクの昇降舵手を父に持つ作者が、事件の真相とその時代に生きた人々の真実を追う物語
作中に出てくる操舵手エドムント・ボイセンは、父をモデルにしたおぼしく、船乗りから飛行船のスタッフになる経緯を、子供時代から丹念に追っている。半ば、父を題材にした文学小説と言っていい
対して事件を追うビルガー・ルントは、墜落の直前からようやく乗客として姿を現し、事故後に顔と経歴を失って、当事者でありながら家族のもとへ帰れたボイセンと対照的な存在に描かれる
小説の原題『Phoenix(不死鳥)』で、それを意味するのは破壊からの再生。ヒンデンブルクという悲惨の事故を直視することで、別人を生きるルントは人生の意味を取り戻す
ボイセンにとって見れば、事故を直視することは、ナチス・ドイツという忌まわしい過去を見つめなおすことであり、そうしてこそ「ドイツ人の真の再生」は成ると言いたげだ
ミステリーと思って読むと肩透かしを食う部分もあるが、1910年代から1930年代、そして戦後と辿る物語は、それぞれの時代の空気を匂わせてくれる

ヒンデンブルク墜落の原因は、明確には分かっていない
最近の研究では、外皮塗料が原因で静電気が外へ出なかったという説が有力になっているが、それでも説明できないことがあるようで、作者はそこを突いてナチス陰謀説を唱える
実際、ヒンデンブルク墜落後に同情から米独関係は良化し、ルーズベルト大統領はドイツへのヘリウムガス輸出を認めている
ただしその後のオーストリア併合で、再び関係は悪化しているし、小説で語られる推測にも信憑性が薄い。事故に脱出したルントが反ファシズム活動家から、爆破した犯人と勘違いされて褒められる場面もあり、事件当初は共産党をはじめ様々な陰謀論が飛び交っていた
ともあれ、小説ではヒンデンブルクが平和と科学が両立する象徴であると強調されていて、その墜落を破局の始まりとする文学的表現と見るべきだろう
ルントによると、殺人者とは自己破壊者であり、一人で死ねないから他人を巻き込む。ヒトラーはドイツ国民全体を巻き込んだ破壊者であり、平和の象徴としての飛行船は許せなかったとする。1940年にヒンデンブルクと同型の飛行船は、その建材のアルミニウムを戦闘機に回すために解体されている
そうした破壊者の台頭を許したのが、実直に務め家庭を守る、ボイセンのような平均的ドイツ人だという指摘は、ドイツ人にとって非常に重いものだろう

飛行船の時代はとうに終わったが、ツェッペリン型飛行船は90年代になっても作られている
その名もツェッペリンNT(ニュータイプじゃないぞ)で、骨格を炭素繊維、船体を化学繊維で組んだハイテク飛行船で、訳者はこれを日本に導入する事業に参加していた
2004年から営業飛行したものの、業績不振で2010年に会社が倒産してしまったが、海外ではまだ運行されているようだ


関連記事 【DVD】『ヒンデンブルク 第三帝国の陰謀』

【DVD】『ザ・フューリー 烈火の戦場』(2014)

ブラピはどこ?




1945年6月。ヒトラーの死後、ナチスドイツは散発的な抵抗を続けていた。駆逐戦車ヘルキャットの部隊”報復の天使”は捕虜収容所を解放した。捕虜を後送するオーエンスはかつて戦車乗りであり、ヘルキャットを懐かしそうに触るが、戦車の隊長シムスは彼が黒人なことから毛嫌いする。その後、オーエンスは捕虜の乗るトラックをパンツァーに撃破され、イギリス人と逃亡。“報復の天使”と合流するが、そこに三台のパンツァーが迫っていた

ブラピ主演の『ヒューリー』だと思ったら、やられた(笑)
この映画の原題は『SAINTS AND SOLDERS:THE VOID』であり、しかもシリーズ3作目。邦題は完全に『ヒューリー』の便乗だったのだ。ちなみに、シリーズ前作も邦題はまったく別につけられていて、配給会社は万死に値する
便乗ゆえにB級映画のレッテルを貼られたようだが、中身はそう悪くない
キャストもマイナーで演出も地味であるものの、大戦期における軍体内での黒人差別など、戦争映画では見逃されがちなポイントをテーマとしている
「多民族を迫害する敵と戦っているが、俺たち自身は誰も守ってくれない」。主要人物のイケメンが堂々と差別表現を乱発するなど、作り方に妥協がないのだ。黒人兵士が戦場で肩を並べるようになるのは、ベトナム戦争からで、この頃にオーエンスのように戦車を触れた人間すら限られたことだろう
アクションはあるものの、飛びぬけたヒーローがおらず、極端に悪い奴も出てこない(イギリス人の敵役ぐらい)。兵士の視点に合わせた『コンバット』の延長にある作品である

『ヒューリー』に便乗しただけあって、戦車戦は迫力がある
ただし、味方の戦車は駆逐戦車M18ヘルキャット。主砲の威力は高いものの、歩兵のライフル弾も貫くほどの紙装甲で、作中ではパン箱に喩えられている
ちなみに太平洋戦線では、支援砲撃に徹していて、チハたんでも破けるほど脆弱だったようだ
それに対するは、パンツァーカンプフワーゲンⅢ。パンターでもなく、3号戦車の後期型。その運用思想により電撃戦の立役者となった戦車だが、スペック的には絶えず劣勢を強いられていた。これを狩り出せねばならないところに、第三帝国の末期感が出ている
それでも、「パン箱」のヘルキャットには充分な強敵で、正面から撃っても一発目は耐えられてしまう。しかも相手は三台いるのだ
主砲の威力だけはあるので、頭脳戦で撃破するかと思いきや、さほど活躍しない(苦笑)
一台はイギリス人が奇襲で倒し、最後の一台もオーエンスが地下からパンツァーファウストを食らわせて決着。なんとも、スペックに相応しい戦果に収まるのである
渋すぎるぜ……良くも悪くも


ブラピが出ている方→ 【BD】『フューリー』



【DVD】『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』(2013)

97人中、62人が生存。イメージより助かった人が多いけども




飛行船の技師マーティン・クルーガー(=マクシミリアン・ジモニシェック)は、グライダー飛行を楽しんでいて、森の池へと不時着。たまたまドイツに来ていたジェニファー(=ローレン・リー・スミス)に助けられる。お礼に領事館のパーティに招待しようとしたが、彼女はアメリカの石油会社ヴァンセントの令嬢。領事館の主賓はまさに彼女の家族だった。パーティは同社のヘリウムガス売り込みが目的であり、ジェニファーは母ヘレン(=グレタ・スカッキ)とともにヒンデンブルグ号で帰国しようとするが……

なかなか本格的なサスペンスだった
もともとがドイツのテレビ映画で三時間の長編ドラマ。それを劇場版として2時間に再編集したのだが、それでも一つの作品としてしっかりまとまっている
冒頭にロックが流れるように、史実のヒンデンブルグ墜落事件を追いかけるというより、事件をフィクションで膨らませた陰謀劇で、往年のスパイ映画のような仕上がりだ
主人公がヒロインに救助されるところでは彼女が下着姿とか、お色気要素もばっちりで、ゲシュタポとのアクションシーンもなかなか緊迫感がある。主人公補正が薄く、プロ相手にきっちり、ボコボコにされてるのがリアルだ(笑)
セックス&バイオレンスを盛りつつも、重厚な雰囲気を崩さずに、一連の事件を史実の範疇にまとめられていて、一流の娯楽大作といえる。CGで再現されたヒンデンブルグ号の爆発は大迫力で、劇場で観たかったものだ
ただ、劇場版は流通の関係か英語に変更されていたのが少し残念。ドイツとアメリカが舞台なので、両方が英語ではどうも締まらない。何人かの役柄は吹き替えで声が入れ替わっているようだし、それなら日本語の吹き替えがあったほうが……

ヒンデンブルグ号を製造したツェッペリン社は、創業者フェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵が飛行船製造として創業した。当初から商業旅行が視野に入っており、第一次大戦で軍用に動員されつつもある程度の利益を上げていた
映画でも出てくる二代目社長のフーゴ・エッケナー(=ハイナー・ラウターバッハ)は、優れた技術力と営業力を兼ね備えていて、1928年には全長235mのグラーフ・ツェッペリン号(LZ127)の建造に成功する
ヒンデンブルク号(LZ129)は、全長236.6mの当時世界最大の飛行船であり、ドイツの科学技術を象徴する存在であった
しかし、作中にも触れられているように、アメリカの禁輸政策によりヘリウムガスが滞り、発火の危険がある水素ガスを使用する設計を強いられていた
当時は水素ガスが爆発の原因とされていたが、最近では外皮の塗料が問題で、船体の静電気が外に放出されなかったためと言われ、映画にもそのような描写があった
ヒンデンブルクの墜落は到着を待ちわびたマスコミと大衆の前で起こったため、その劇的なタイミングから、様々な陰謀論が生まれた。実際のところ、第三帝国の象徴的位置にあるので、自作自演は無理筋だろうけど




関連記事 『ヒンデンブルク炎上』

『ナチスの発明』 武田知弘

我がドイツの科学力はァァァァァァァアアア 世界一ィィィイイイイ ...



ナチス・ドイツの経済政策を再評価する著者が、ナチス時代の発明と計画を紹介する

例によって、ドイツ科学の成果をナチスの功績に置き換えている(苦笑)。分かっていて書いているのだから、タチが悪い
画期的な発明にも蓄積がいるのであって、それがナチス時代に花開いたといっても純粋にナチスの功績とはいえない。ナチスは科学者の集団ではないし、むしろオカルト的な俗流科学を流布させ、優秀な科学者をアメリカ等も流出させたわけで、そうした影の部分を取り上げないと全体像を描いたと言えないだろう
そもそもアメリカが台頭する前、第一次大戦前のドイツはイギリスを抜いて世界第1位の工業力を誇っていたわけで、実は帯にあるほど衝撃的な内容ではない
ただ一つ一つの記事自体は確かな事実を踏まえており、某漫画の台詞が現実であることを実感できるものだ


1.政治の劇場化とメディアの活用

ロケット、ジェット機、ヘリコプター、リニアモーターカーに、テレビ電話……こんなものもと驚くものもあるが、元を正すと第一次大戦前後に発端があり、軍事目的で進化したものが多い
国産自動車、フォルクス・ワーゲンの構想も、ナチス時代にはすぐ戦争に突入してしまい、わずか数十台足らずで生産停止。労働者の積み立て金は戦費に消えてしまった
著者は戦争がなければ言うが、財形貯蓄と同じく確信犯的に労働者から掠め取ったといわざる得ない(苦笑)
あえてナチスの発明に相応しいものがあるとすれば、政治を劇場化していったことだろう
党大会の演出は戦後のロックスターにも影響を与え、レニ・リーフェンシュタールの記録映画は映像表現の金字塔となった。ニュルベルク党大会における「光のカテドラルは、今では世界中のテーマパークで取り入れられて定番化しているものだ
政治宣伝のため、安価なラジオを普及させるなど、最新技術とメディアの活用という点で、確かに数段抜けている


2.ベルサイユ条約の逆境

第二次大戦でドイツが次々に新技術を開花された背景としては、ベルサイユ条約が挙げられている
陸軍国が10万人への軍縮を強要されたために、その穴埋めとして条約の規制に入らない技術開発に重点を置くようになり、ただでさえ最新技術を持っていたドイツはさらに先んじることとなった
もっともそれらは国防軍の工夫であり、“ナチスの発明”といい難いものだったりするけども
巻末の方では、ナチスの核開発円翼機によるUFO神話(フライングパンケーキの開発は戦後ではない…)、怪しいネタもあるが、IBMが世界大戦前夜までナチスに情報処理のためのパンチカードを提供していたなど、知られざる薀蓄も載っているので小ネタ集としては悪くない


*23’4/15 加筆修正



『第二次世界大戦 ヒトラーの戦い』 第3巻 児島襄

ついに西方電撃戦




第3巻は“ファニーウォー”中の対英和平工作に、ノルウェー侵攻の“ヴェーゼル演習”を経て、マンシュタイン・プランによる西部電撃戦バトルオブブリテン、対ソ戦の前段となるユーゴ、ギリシャの作戦、日独伊三国同盟まで
国防軍は西部戦線に対して悲観的で、戦線が停滞すれば弾薬まで不足するとしていた。そこで反ヒトラー派の軍人たちは、再びクーデター計画を蒸し返す
英仏への攻勢を合図にした計画は皮肉にも、“ファニーウォー”が続きすぎたことから頓挫してしまう
ヒトラー自身も英仏の宣戦、特にイギリスの激しい抵抗は予想外だった。ファニーウォーの原因はドイツ側が和平の可能性を捨てていなかったためでもあった
戦前には対英融和のために海軍の拡大をしておらず、イギリス本土の上陸作戦を立案したものの、将来の対ソ戦を重視して本腰ではなかった
フランス制圧後もイギリスへの和平の期待は収まらず、副総裁ルドルフ・ヘスが単独渡英する事件を引き起こすのだった
戦艦グラフ・シュペーの最期ヴェーゼル演習におけるデンマークとノルウェーの対照的な対応、戦争で影響力が低下したムッソリーニの右往左往など、相変わらずマニアックな人間味のあるエピソードを取り上げられて、もう満腹です


1.幻のソ連侵攻作戦


西部戦線のフランスについての記述は、アンドレ・モーロワ『フランス、敗れたり』からの引用が多いようで、ポール・レノーエアドール・ダラディエの、愛人を交えた政争が面白くおかしく描かれている
驚くべきは、戦線の膠着を打開すべく、フランスによるソ連侵攻作戦が計画されていたことだ
目の前のドイツよりは、ソ連のほうが倒しやすいと、フランスの委任統治領のシリアから植民地軍を北上させ、ソ連の資源が集中するカフカスを突くという壮大な作戦である
さすがに却下されたものの、冬戦争のフィンランド支援を巡って政争が起き、ダラディエ政権は倒壊し、ポール・レノーが首班となる
しかし、レノー政権ダラディエが入閣しないと政権が持たない脆弱性を抱えており、挙国一致には程遠い体制だった
パリ占領後、レノーは徹底抗戦を唱えたが、軍部が秩序だった抵抗はできないとして反対し、副首相だったペタン元帥(84歳!)に政権が渡って、ヴィシー政権が成立する


2.独ソ関係の悪化と松岡洋右

ヒトラーはフランス制圧後、イタリアへの援軍にロンメル率いるアフリカ軍団を送りつつ、対ソ戦への準備を始めた
ソ連側も徐々に対独戦を想定し始めていたようで、スターリンの「積極攻勢発言」もあって1942年を目標に装備の刷新を目指していたらしい
ドイツ軍関係者にミグ戦闘機を見せたこともあり、赤軍の強大化を感じたヒトラーはより対ソ戦への決意を強めたようだ

そんな情勢のときに、のこのこ現れたのが、“東方の使者”日本外相・松岡洋右
松岡は日中戦争の打開のために援蒋ルートを遮断しようと、仏領インドシナへの進駐を希望していた。また、日独伊三国同盟をソ連を交えた四国同盟に発展させ、アメリカの介入を防ぐ構想を持っていた
ヒトラーの要求はずばり対英戦で、シンガポール攻撃を依頼した。松岡は南進論者であったものの、イギリスへの宣戦は自動的に対米戦を招くとして、意味不明の問答で回避する

アメリカの宣戦が第二次大戦の転機となったため、真珠湾攻撃時のドイツの対米宣戦布告が不可解とされるが、ドイツ側からすると「民主主義の武器庫」としてイギリスを支援した時点で敵国同然であり、将来の参戦は不可避と判断していたようだ
日本の参戦でイギリスとアメリカの国力が削がれることを期待されていて、対ソ戦中に真珠湾攻撃があったことはドイツ側からすると同盟の効果が生きたということになる
しかし日本側からすると、日独伊三国同盟で生まれた国益って……


*23’4/15 加筆修正

前巻 『第二次世界大戦 ヒトラーの戦い』 第2巻

関連記事 『フランス、敗れたり』

『ヒトラー・ユーゲント―青年運動から戦闘組織へ』 平井正

少年団同士の国際交流で日本にも来たそうで



ナチズムの少年団「ヒトラー・ユーゲント」の実態を、その成立から悲劇的結末まで追いかける

本書は全体主義のプロパガンダ、その尖兵の供給源となり、最終的にはすべての青少年を強制加入させた「ヒトラー・ユーゲントを、目的、集団生活、文学や映画への題材、指導者の変遷など多角的に検証していく
名前からはヒトラーを個人崇拝する絶対服従の少年親衛隊、と思えるが、実際はそう単純ではない。ヒトラー自身はナチズムの従者として期待し、突撃隊候補生と見ていたが、少年たちそのものにそれ以上の価値を見ていなかった


1.シーラッハの民族教育

「ヒトラー・ユーゲント」の性質を決めたのは、ヒトラーから信認を勝ち取ったバルドゥーア・フォン・シーラハ。中産階級出身で文学者志望だった彼は、ドイツの青年運動「ワンダー・フォーゲル」の要素を持ち込み、彼なりのドイツ的価値(国粋主義!)を植えつけようと野外生活、文学や映画による啓蒙に重きをおいた
ナチスの体制では、なにが“頽廃”か、ヒトラーの指示がないところでは各部署の独裁的な指導者に委ねられていて、シーラハは宣伝相ゲッペルスと組むことで様々な妥協を重ねつつも、ユーゲントを自分色に染め上げていく
しかし、戦時下にアルトゥール・アックスマンがユーゲントを指導するようになると、一気に少年兵の戦闘集団へ変貌していく


2.全体主義への反抗

少年たちからすると、「ヒトラー・ユーゲント」は退屈な家庭、学校生活から解放する側面があった。著者によると、日常からの解放、「非日常性」をいかした偽りの文化(キッチュ文化)を上手く利用したことがナチズムの特徴だとする
しかし実際に入団してみると、画一的に鋳型へ流し込む集団生活は少年達にとって過酷なもので、ユーゲントのなかでは後に反・ヒトラーの活動に身を投じるものもいた
少年たちのイライラは暴力事件へと発展し、共産党本部占拠ゲームなどプロパガンダに利用された事例もあれば、エーデルヴァイス海賊団といわれる反ヒトラー・ユーゲントの少年愚連隊を生み出し、治安当局を悩ます自体に発展した
人間を全体のために存在するとし、理想像にはめ込んでいく全体主義の非人間性を、端的に表しているようだ


3.少年兵として前線へ

大戦が始まると、まずヒトラー・ユーゲントの指導者たちが従軍し、シーラハ自身も負傷するなど多くの犠牲を出す
ノルマンディー上陸作戦の際には、「ヒトラー・ユーゲント師団」が結成され、ついに少年兵が矢面に立つ。連合軍からは“ベイビー師団”と揶揄されながら、大人顔負けに健闘し、ユーゲントは国民突撃隊へ参加していく
少年達が勇敢に戦えてしまったのは、著者は「戦争」と「戦闘」の区別がついていなかったのでは、と推測する。全体の戦況や未来の観測なしに、目の前の戦場に適応し燃焼してしまうのだ


本書では、ナチス統治下の教育、女性に対する考え方、プロパガンダに使われたユーゲント映画など、第三帝国の銃後を様々な角度で触れていて、新書で読めるのは貴重である


*23’4/15 加筆修正



『第二次世界大戦 ヒトラーの戦い』 第2巻 児島襄

びびるぐらいなら止めればいいのに…




第2巻は、赤軍大粛清から、将軍追放による軍部掌握、オーストリアの“大併合”、ミュンヘン会談、独ソ不可侵条約、そしてポーランド侵攻による第二次世界大戦の始まりまで


1.国防軍の掌握


すでに一党独裁体制を築いたヒトラーは、最後の抵抗勢力、国防軍に標的を定める
ヒトラーの支持者だった国防相・プロンベルグ大将が、再婚相手の経歴を不適当であるとして罷免、陸軍総司令官フリッチェ大将も同性愛疑惑の罠にかかって更迭された。ヒトラーの戦争計画により忠実な将軍を起用するともに、トップの首を刎ねた事実をもって国防軍への支配力を強めた
しかし、ヒトラーの戦争計画はドイツを破滅させるものと見なし、参謀総長フォン・ベック大将、参謀次長ハルダー大将(その後、参謀総長)を中心にクーデター計画も練られていて、チェコ併合後もくすぶり続けることになる


2.ファニー・ウォーの真実

ミュンヘン会談からポーランド侵攻までで見えてきたのは、誰もが世界大戦を避けたがっていたこと
ミュンヘン会談は英仏の対独宥和外交として有名で、チェコは対ドイツに軍備を集中していたため、国境地帯のズデーテン地方を取られると軍事的に無力化されてしまい、そのままスロバキアの衛星国化とチェコの併合に直結した
ミュンヘンでは英仏の妥協を見切ったヒトラーも対ポーランドでは揺れた。英仏の強硬姿勢が世界大戦を呼ぶと見て、急遽ソ連へと接近する
ソ連はポーランド東部を第一次大戦で失った勢力圏と見ていて、取り返すべくドイツと交渉に入る。ポーランドがソ連の援軍に否定的だったことも、独ソ接近につながった

それでもソ連の態度が不透明なうちは開戦に踏み切れず、8月25日には作戦開始直前にヒトラーは延期を決めている
たとえソ連との不可侵条約で二正面作戦が避けられても、イギリス相手の長期戦は避けたい。またアメリカの参戦が破滅をもたらすとも予測していたようだ
ポーランド戦が本当の世界大戦にならぬよう、対イギリスへの先制攻撃を禁じ、西部戦線では散発的にしか砲火を交えない“ファニー・ウォーが続くこととなった


3.日本外交の迷走

独ソ不可侵条約に、防共協定を結んでいた日本は大きく動揺する。複雑怪奇の迷言を残して時の平沼内閣は総辞職
ドイツからすると、防共協定はソ連への牽制ではあったが、同時にイギリスの海軍を引きつける役割を期待していて、日本の思惑とはかけ離れていた
駐独大使となった大島浩中将は、ドイツ側へ不可侵条約はソ連の極東進出を助け、防共協定を空文化するものと抗議する。が、外務次官からは「日独同盟に日本が躊躇するから不可侵条約を結ばざるえなかった」などと言われ、リベントロップ外相からは日本もソ連と協定を結べばいいじゃない。ナチスファンの中将にして大きな不信感をもたざる得なかったようだ
どうして、ここから三国同盟に発展できたか、謎と言わざる得ない(嘆


*23’4/15 加筆修正

次巻 『第二次世界大戦 ヒトラーの戦い』 第3巻
前巻 『第二次世界大戦 ヒトラーの戦い』 第1巻



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