「瞠目」「脱帽」。富野監督の推薦文が帯にあって、衝動買いしていた。それでしばらく積まれていたのだが(苦笑)、こういう情勢なら手に取らざるえまい
原作者のアレクシエーヴィッチは2015年にジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞したベラルーシの記者で、本作以外にソ連のアフガニスタン侵攻やチェルノブイリのレポートで知られている
原作では第二次世界大戦、それも熾烈を極めた独ソ戦に従軍した十代の女性兵士たちの証言を集めていて、2019年から漫画配信サイトComicWalkerにてコミカライズされていたのだ
作画を担当されたのが、ライトノベルの長編シリーズ『狼と香辛料』で同じくコミカライズされていた方で、人物の描写も扱っているテーマのわりに柔らかい
しかし、そのおかげで日常を普通に送っていた女性が、戦争に巻き込まれていき、ほんの束の間に感じる生の喜びがよく表現されている
独ソ戦において、男性は徴兵されたが、女性に関してはあくまで志願制だった。それでも、生まれ故郷が戦場になる大祖国戦争、防衛戦争という状況が、彼女たちを戦場へ足を向かわせた
本作の特徴は、なんといっても臨場感。戦記物になりがちな題材だが、戦況や兵器の説明などはなく、戦場において何に出会い、何に直面したかに集中している
一番象徴的に思える台詞は、「戦争で一番怖かったのは、男物のパンツを穿いていることだよ」。軍隊では女性が従軍することを想定していないので、下着はすべて男性用。生理のときは止めようがなく、行軍中にぽたぽたと股から血がしたたってしまう
高射砲兵のクララの章では、男の兵士が干しているシャツを盗んで、脱脂綿がわりに使うエピソードが紹介されている
もともと貧しいうえに戦争で焼かれた故郷に対して、進軍するヨーロッパでは庶民がコーヒーを飲んで嘆いている格差は、今のロシアとヨーロッパにも横たわるもの。最初の洗濯部隊の章でドイツからミシンを戦利品として持ち帰るのも、そうした文脈で受け取らねばならない
ネットメディア発のせいか、視点となる登場人物が変わったときが分かりにくかったり、もとがインタビュー集ゆえ語りの比重が多いところはあるが、戦争が人間をどう扱うか、どう変えていくかを考えさせられる作品なのである