『さらばカタロニア戦線』 スティーヴン・ハンター

主人公も読者も騙される


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元植民地警察官のロバート・フローリーは、出版社を窓口にイギリス諜報部から“要請”を受けた。イートン校時代の旧友、ジュリアン・レインズをソ連のスパイであるとして、阻止して欲しいというのだ。ジュリアンのいるスペインへ向かう船で左翼かぶれの美女シルヴィア、奇妙な老水夫と出会うが、イタリアの潜水艦に沈められてしまう。上陸したカタロニアは、ファシストとアナーキストとスターリニストが角突き合う地獄が待っていた

原題は、「Tapestory of Spies」スペイン内戦を舞台にしたスパイ小説である
この手の小説の主人公は出来過ぎが常道だが(出なきゃ生き残れない!)、本作のフローリーくんは元警官ながらスパイの世界ではど素人。ある殺人事件での偽証からMI6に型にはめられ、スパイの嫌疑のかかる人物が旧友というだけで鉄砲玉に仕立て上げたにすぎない
詩人・作家願望もあって、読者からすると等身大で入りやすい人物なのだ。植民地官僚らしいオリエンタリズムの持ち主なのが珠に瑕で、あまりに時代に忠実過ぎる気もするが(苦笑)
彼を振り回すのが、MI6のこわもて少佐、ソ連の伝説的スパイ“悪魔御自身”、左翼かぶれの美女、バルセロナを牛耳るソ連保安部、そして主人公と隔絶した才能を持つ親友と、それぞれの意図をもって主人公を利用し、地獄の戦場で暗躍する
いったい誰が信じられるのか。熾烈な騙しあいを繰り広げながら、底流には男の友情とその復活がテーマという、単なるスパイ小説を超えた傑作である

スペイン内戦は、1930年代に成立したスペイン共和制に対して、1936年に軍隊が蜂起したことで始まる。共和派がソ連や各国の義勇兵を集めた国際旅団の支援を受け、フランコを首班としたファシスト党はドイツ、イタリアの強力な支援を受けて、泥沼の内戦が展開された
小説の舞台となる、共和派の牙城だったカタロニアとその中心都市バルセロナでは、イベリア・アナーキスト連合(CNT・FAI)、反スターリン親トロツキーのマルクス主義統一労働党(POUM)、ソ連に牛耳られたスペイン社会労働党(PSOE)がいて、反ファシズムの人民戦線が組まれていた
共和派を支援する国が実質的にソ連しかいないことから、ソ連の影響力が時を経るごとに増して行き、バルセロナの警察にはソ連から送り込まれた軍事調査局(SIM)により、本国ばりの恐怖政治が始まっていた
1937年の5月には、バルセロナの主導権を巡ってアナーキスト派とソ連派が衝突し数百人の犠牲者を出す「バルセロナ5月事件」が起きる。作中でも人民戦線内の内ゲバが要所で描かれ、自壊していく共和派の実態が痛々しいほどよく分かる

小説の争奪されるのは、いわゆるモスクワの金スペイン共和政府が外貨準備金として用意していた金塊や外貨が、内戦のどさくさにソ連に強奪されたという話で、ヒトラーがソ連や人民戦線を非難するときに格好のネタにされた
実際にファシスト陣営に取られるよりは、なんぼか引き渡されていたらしく、共和政府はこの不手際からソ連や国際社会に対する交渉能力を失ったようだ
ドイツから派遣された将校によって統率されたファシスト派は、その母体が軍隊であることからして実戦能力は高く、共和派は国際旅団などの素人の集まりでありかつ、残存した軍人への不信からまともな作戦を立てられなかった
前門にファシスト、後門にスターリニストという壮絶で救いのない政治状況が、本作では残酷なほど再現されている。まるで、今のシリア……
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内戦中のスペイン。孤児院に連れて来られたカルロス(=フェルナンド・ティエルブ)は、謎の声を聞く。年長のハイメ(=イニゴ・ガルセス)にけしかけられ、水を汲みに行くとボイラー室でも何か気配を感じる。その正体は爆撃の夜に行方不明になったサンディ(=フニオ・バルベルデ)と関係しているらしい。やがて内戦が国粋派に傾き、共和派の孤児院は疎開を決める。孤児院を逆恨みする用務員ハチント(=エドゥアルド・ノリエガ)はこれをチャンスと捉えて……

ホラーというより、内戦を背景にしたサスペンスだった
というのも、早々に幽霊が正体を見せてしまうので、気色悪いけど見慣れてしまって怖い要素が少ないのだ
それでも子供時代の、ふとした音や影でも怪物のように想像してしまう恐怖をよく表現していて、古いスペインの話なのに懐かしいものを感じてしまった
一番怖かったのは幽霊よりも、カザレス医師(=フェデリコ・ルッピ)が飲む“未熟児のラム酒漬け”。原題の由来ともなったこの「悪魔の背骨」(El Espinazo del Diablo、二分脊椎症で生まれてきた胎児の露出した背骨)は、本当に生薬として信じられていたようだ。怖過ぎる…
カルメン院長(=マリサ・パレデス)とハチントとカザレス医師との三角関係、国粋派(?)による国際旅団の粛清、そしてクライマックスの血まみれの「ホーム・アローン」などホラーのジャンルを大きくはみ出した、なんとも言えない作品である
勧善懲悪が保証され、ファンタジーで魅せる部分も少ないが、子供たちの苦い旅立ちを渋く描ききっている

タイトルの『デビルズバックボーン』は、上記のように奇形児のことだけど、孤児院で育った子供たち、特にハチントのことを指しているようだ
歪んだ社会や戦争のせいで、悪に転んでしまった彼が、さらに孤児たちの復讐を誘って罪作りをさせてしまう
こういった連鎖はどこでも起こっているわけで、作り手の問題意識はそこにある。『パンズ・ラビリンス』より評価は低いらしいけど、やはり見るべき作品なのだ
しかしなぜこれを作った監督が、『パシフィック・リム』でエイリアンを吹っ飛ばすだけにしたかは不明(苦笑)

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ラストはタヴー破り!


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1944年、スペイン。内戦終結後もレジスタンスが抵抗する森に、オフェリア(=イバナ・バケロ)はやってきた。母カルメン(=アリアドナ・ヒル)がフランコ軍のヴィダル大尉(=セルジ・ロペス)と再婚し、身重の体でその任地へ趣くことになったのだ。謎の石碑から飛び出した虫に導かれたオフェリアは、廃墟の迷宮の中で妖精たちと守護神パン(=ダグ・ジョーンズ)に出会うが……

ファンタジーとシリアスな歴史物がブレンドして不思議な味わいになっていた
ファンタジーとしては、少女が不思議な世界に出会い、試練を経て世界の秘密を知り、元の世界に返ってくる「往きて還りし物語だが、元の世界がなにせ内戦の埋火が冷めやらぬ時代。フランコのフェランヘ党によるレジスタンスへの苛酷な弾圧が行われ、ときに子供たちすら巻き込まれる
退屈な日常から非日常へ旅する王道パターンとは、その点一味違う。スペイン内戦という背景を理解しないと、このラストは承服しがたいだろう
愛らしいヒロインを演じるイバナ・バケロの魅力もさることながら、敵役ヴィダル大尉の造形がいい。戦死した父親の時計を形見に持ち、部下を私兵同然に使い、砦では専制君主として君臨する。戦いでは陣頭に立つ勇敢さを見せるものの、捕虜への拷問は容赦がない
軍人の枠内で考えて人間を功利的に使い切る、颯爽した独善ぶりは、フランコ独裁政権を一身で象徴している
ファンタジー描写は地下世界の虫と泥へのこだわりを感じるものの、レジスタンスの描写に比べ地味に思えてしまうが、日常が非日常より苛酷という転倒がテーマでもなので致し方なしか

オフェリアはパンに導かれ、死んだ王を継ぐ女王として地下王国への試練を受ける
地下王国は「死者の国であり、死んだ王は幼くて亡くした父を暗示する。つまり彼女にとって地下王国への旅は、父親探しの旅である
王国へ入るための三つの試練が必要で、最初は枯れた大木に潜り込み大蛙から「黄金の鍵」を取り戻すこと。与えられたドレスを脱ぎ捨てたところを見ると、文明社会から遠ざかって動物や虫の世界へ近づくことを表しているのだろうか
二つ目はのっぺらぼうの住人の館へ行き、「黄金の剣」(?)を持ち帰ること
目のない住人は、前のさらに眼球を載せていて、まるで死体のごとし。小さい靴の山を見ると、まさに子供に目がない「死神」
途中の食物を食べてはいけないのは、女王が粗忽なつまみ食いをしてはいけないという高いモラルと、死人に食べ物はいらないという含みを持たせているようだ。だからこそ、パンはつまみ食いを許さない
(実のところ、ここまで啓蒙的な教訓と解釈できたが)
三つ目は無垢なる者の血を捧げること
ここにおいて、パンはキリスト教社会における悪魔の顔を見せる。羊頭の神様はキリスト教が浸透するや、魔物の領域に追いやられている
血をもって開く扉の先に待つのは、明らかに「死者の国」だ。死なないと入れないのである
本来なら少女が「死者の国」で生命の真実に触れ、大人になって帰ってくるのが、この手のファンタジーの王道なのだが、戻るべき現実は「死者の国」より地獄だったということだろう……
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