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『問題は英国ではない、EUなのだ』 エマニュエル・トッド

フランス内では「左翼」の立場とか


問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論 (文春新書)
エマニュエル・トッド
文藝春秋
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イギリスの離脱はEUが悪い!? エマニュエル・トッドが日本で語った世界の行く末
ややタイトルに偽りありだろうか、イギリスのEU離脱について、語ったのは最初の二章までで、後はトッド自身の経歴を紹介し、おなじみの家族の在り方から世界を分析する手法が語られ、これまでの著作のおさらいのようになっている
しかし気さくな語り口で、具体的な事実から分かりやすく関係性を探り当てるのはやはり魅力的で、複雑な国際社会の構図がさっぱり見えてしまう。この人の入門書としては最適だろう
ただフランスに関しては、2016年9月の出版で、まだマカロン大統領が誕生する前。現政権に対する評価ではないことに注意

バラバラの章立てながら、ひとつのテーマとなっているのは国家の復興
グローバリゼーションによる過剰な流動性によって、世界の人々、特に先進諸国の人間は疲労しており、物や人の移動に一定の制限を与えるものとして「国家」の再興が求められるとする
イギリスのEU離脱やトランプ現象もこの表れであって、本来はグローバリゼーションの元になった新自由主義が生まれたアングロサクソンから、それを是正する動きが始まったことが重要なのだ。特にイギリスは、サッチャリズムによってアメリカに10年先んじて、その流れを作っている
新自由主義(ネオリベラリズム)の誤解は、「国家」を小さくすることが、強い「個人」を作ると考えていること。実際には、減税は貧富の差を拡大させ、貧富の差は教育格差を生み出し、統計的に小さな政府は親に依存する子を作り出している
自由に耐えうる「個人」を生むには、「国家」の役割が重要なのである
中東の混乱も「国家の不在」によって説明がつき、中東の社会はいとこ婚の率が高い「内婚制共同体家族」であるがゆえに、そもそも「国家」が成立しづらく、成立しても独裁制なりやすい。それにも関わらず、アメリカはイラク戦争で「国家」の空白地を増やしてしまったことが、混乱に拍車をかけてしまった
著者が今一番危ないのはサウジアラビアであり、出生率の減少を崩壊の予兆とする。それを支えるアメリカは、原油の価格をコントロールすることで日本とヨーロッパを縛る意図がある

専門家ではないと断りつつ、日本に対する評価は完成された「国家」と悪くない。ただ、〝完成された”という言葉に、柔軟性の無さ、保守性も含んでいて、少子化問題を解決するには、明治維新以来の変革を要するとも
日本の提携先としては、アメリカは当然として、中東では一番堅調なイラン、完全復活した大国ロシアを挙げる。このあたりは、自民党政権の外交戦略とそのまま合致しそうだ
中国に対しては、一人っ子政策による少子化と、外国からの投資に頼った経済から、先行きは不安定とする。本来の中国は父性が強く兄弟の平等性を重んじる家族観で、格差が大きい経済も社会の緊張を拍車をかけるとする
日本としては、中国のナショナリズムを煽る手法に囚われず、ポストナショナリズムを生きる国として実利重視に振る舞うべきであり、防衛力の強化も過去と結び付けられない形で実現するべきとする
やや視野が長期的過ぎる嫌いもあり、トッド自身も世界が不安定過ぎて「先のことを予想するのが困難」と断っているのだが、人口学の見地から世界への幻想を引き剥がす分析は鮮やかである

『シャルリとは誰か?』 エマニュエル・トッド

レイシズムVSテロリズム



2015年1月7日にパリで発生したシャルリー・エブド襲撃事件。その後に起こった「わたしはシャルリ」と掲げたデモには、いかなる意味があるのか。シャルリが行っていた風刺とそれに対するテロの社会的背景を読み解く

フランスのことなので、だいぶ読むのに時間がかかった… ただ、その社会分析は今の日本にも通ずるものがある
シャルリー・エプドについては、テロの被害者という側面で注目されていて、日本の報道でも「表現の自由」VS「テロリズム」という単純な図式で伝えられきた
本書では、シャルリー・エプドがそれまで行ってきたイスラム教への風刺画から、フランスの中産階級が抱くにいたった移民やムスリムへの恐怖を読み取る。さらには左翼陣営による「ライシテ=世俗主義」の立場からの差別主義まで見出すのだ


1.世俗主義とカソリックの伝統

フランスの社会分析に関しては、かなり専門的なので管理人が把握するのは大変であるが(苦笑)、要所で著者がまとめてくれるので内容はおおよそ理解できる
フランスの近代社会は、フランス革命で生まれた「ライシテ=世俗主義」だけでなく、地方で根付いたカソリックの伝統との両輪で回ってきたという。フランス革命の「博愛」の源泉も、カソリックの「すべての人間は平等である」という原則に発している
しかし、事件を受けた「私はシャルリ」のデモを分析したところ、本来はカソリックの伝統を継いでいた地域から、その平等主義の残滓すらなくなっていたことが判明する
そうした最近になって世俗主義に染まった地域でこそ、宗教への警戒感が高まっていて、かつての反ユダヤ主義に連想させる反イスラムの声が上がっているというのだ
むしろ、早々と世俗主義に染まったパリ郊外では、外から人が流入する都市環境に慣れているからか、冷静さを保っている


2.ライシテと不平等原則の「ネオ共和制」

なぜ「ライシテ=世俗主義」が差別主義を生んだのか?
それにはEUがドイツ主導の経済圏となり、ドイツ型の市場経済が形作られたことが経済の格差、特に若年層へ厳しい結果を招いたと著者の持論が展開される。若者に福祉国家の負担を押し付ける政策は、なかでも立場の悪いマグリブ(=北アフリカ)からの移民層を直撃し、路頭に迷った彼らをISに向かわせたとする
そうした政策を主導したのは、従来の「福祉国家」を維持したい中産階級=中年以上の年齢層であり、世俗主義=無神論の立場を楯にムスリムへの幻想ともいえる恐怖心を持つに到った
著者はこの世俗主義と差別主義=不平等原則が結びついた立場を「ネオ共和主義と名づけて、ナチスが生んだヴィシー政権の系譜につなげる


3.適応し過ぎたムスリム社会の崩壊

重要なのは、実際に移民たちのなかで閉鎖的なムスリム社会が醸成されているわけではないことである
移民たちはフランス社会へ適応しようと努力しており、むしろ適応するスピードが早すぎて、共同体が持てず無秩序(アノミー)な状態に陥っているのが問題だったりする。襲撃事件を起こしたグループがいたベルギーでは、逆に閉鎖的な移民社会が生まれていたが、フランスではまったく事情が違うのだ
著者はイスラム教の持つ女性への差別を問題としつつ、かつてのカソリックのように平等主義を持つことに着目。お互いが歩み寄ることで、良き影響をフランスへもたらすことに希望を託す


本書は襲撃事件からIS空爆につなげたオランド政権を、左翼の殻をかぶった差別主義と看破。実は、平等主義の原則を実は極右といわれる国民戦線(FN)の支持層のほうが保っていると驚愕の結論を導きだす
左が右より不平等によりおかしくなる転倒は日本でも起こっていて、在特会周辺が盛り上がったのも、共同体の喪失や格差問題にあったのではないかと思う


*23’4/12 加筆修正



『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』 エマニュエル・トッド 

イギリスは離脱が正解?


「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
エマニュエル・トッド
文藝春秋
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ユーロ圏はドイツに支配されている!『帝国以後』の著者がヨーロッパで起こっている真実を告げる
本書は『帝国以後』のエマニュエル・トッドフランスの雑誌やインターネットサイトで受けたインタビューを集めたもの。インタビューといっても、質疑応答が続くわけではなく、著者が独白のように持論が展開されていて、エッセイのように読めてしまった
著者はユーロ圏が誕生することでヨーロッパ諸国が相互に保護することを期待したが、現実に起こったことは正反対。ユーロという統一通貨と経済障壁が撤廃されたことから、経済大国である統一ドイツ欧州中央銀行の本店がフランクフルトにあるように、自国に合わせてユーロ圏の経済が再編されていったのだ
こうした視点からヨーロッパ地図を見直すと、バルト三国にウクライナを巻き込んだ地域は全盛期のナチスを上回る事実上の「第四帝国なのである!
もっとも、著者は陰謀論的にドイツを批判したいわけではなく、あくまで祖国フランスの覚醒を促すべく、過激な政治的発言をしているので、そのへんは割り引いて読むべきだろう

特筆すべきはロシアとウクライナの紛争の読み方だ
著者によれば、戦争を仕掛けているのはロシアではなく、ドイツだという
ウクライナは第一次大戦や独ソ戦もそうであったように、地政学的にはドイツとロシアがぶつかり合う場所である
ドイツは東西統一の際に、共産圏の知的レベルの高い国民を安価な労働力として動員することに成功した。ユーロの拡大にはこの経験が生かされて、ドイツの大企業は東欧に工場を立てて経済的に取り込んでしまっているのだ
そしてウクライナはドイツ資本にとって、東方最後のフロンティアともいえる
ウクライナの中でユーロ入りを望むのは西部の人々であり、大多数のウクライナ人は明確な意思表示をしていない。民主主義の伝統も薄く、現状のウクライナは解体途上ではないか、というのが著者の読みだ
ロシアにとってウクライナ紛争とクリミア併合は、欧米からのイメージとは逆に巨人の復権とする。プーチン政権下で乳児死亡率が劇的に改善し、出生率が増加に転じていて、かつての国力が回復しつつあるのだ
ロシアの政治体制が著者が好むわけはないが、かの地では「権威主義的デモクラシー」が定着してしまっている。欧米型民主主義が万能と思うのは、欧米の傲慢であるとする

祖国フランスには、ドイツの暴走を止めるバランサーの役割を期待している
新自由主義的な前任者サルコジは論外として、現大統領オーランドもドイツの金融支配を打破しない点で、「ドイツ副首相とまで言い切ってしまう
ユーロに期待された、諸国民がそれぞれの価値を持ちうる保護貿易と、統一通貨のユーロの廃止(!)ないしはそれに匹敵する金融政策の転換につながるように働きかけるべきであり、銀行のお先棒を担ぐのはやめるべきだとする
中国に関しては、「経済成長の瓦解と大きな危機の寸前」にいるとする。他の論考では「軍事力についてもそれほどの存在ではない」として、空母を今さら購入しても唯一の空母同士の海戦を経験した日米には及ばないと見ているようだ
日本については深く扱っていないが、震災後の東北を取材して「日本人の伝統的社会文化の中心をなすさまざまなグループ――共同体、会社など――の間の水平の連帯関係」が機能しなくなった政治制度に代わって、地域の再建・復興を支えたとして、伝統文化が大切である好例として取り上げている
ドイツとの比較では長子存続という共通点を持ちつつも、「日本の文化は他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に取り憑かれている」「ドイツは同じ貿易黒字国でも、技術の面では日本に及ばない」とも。日本人への警告というサブタイトルに見合った内容ではないが、EUのイメージが一変する一書である
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