『モナリザ・オーヴァードライブ』 ウィリアム・ギブスン

読み返さざる得ない入り組みよう


モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
売り上げランキング: 307,404


抗争の激化から大物‟ヤクザ”の娘・久美子は、ロンドンへと向かう。しかし、匿ってくれるはずのスウェインが、電脳世界の一件に噛んでしまったことで、危険な街へ飛び出す羽目に。一方で、タリィ・アイシャムに変わってネット・アイドルの頂点に登り詰めたアンジィ・ミッチェルは、自身をすり替える陰謀を察知してこちらも逃亡。意識不明の‟伯爵”ボビィ女殺し屋モリィまで絡んで、マトリックスの秘密へと迫る

『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』に続く三部作最終巻
前作は三つのプロットが絡み合ったが、本作は‟ヤクザ”の娘・久美子、電脳空間のアイドルになったアンジィ、それに少し似てるという16歳の少女モナ、ロボットを作るジャンク屋のスリックと、四人の視点で物語が同時並行していく
さすがに四つの筋でローテーションを組まれると、読者には把握しづらいし、どうしても展開が遅く感じてしまう。前作では挨拶代わりの派手なオープニングが用意されていたものだが、本作はどれも普通に盛り上がっていくので、背表紙に書かれたような疾走感は感じられなかった
読者の性格にもよるのだろうけど、同時並行するプロットは三本が限界かなと思える
ただ展開が中盤まで渋くとも、四つのプロットが収斂する山場は熱いロボットの活躍も日本人好みだ(笑)
前作とは違い、シリーズの最終巻という性質が強く、ぼんぼん説明もなく固有名詞が飛び出すので前々作、前作の既読が望ましい。ただ解説によると、本場のファンすら引用された日本語のせいでチンプンカンプンだったというから、本作から入り謎を追って遡る読み方もありだろう

本作のタイトル、『モナリザ・オーヴァードライヴ』とは何を意味するのだろう
視点となる三人の女性、久美子、アンジィ、モナはどれも騒動に対して巻き込まれていく。自己防衛のために戦ったり、自身や世界の謎を挑んだりするものの、「オーヴァードライヴ=暴走」するわけではない
暴走する女性といえばネタバレになるが(苦笑)、騒動を起こす「黒幕」3ジェイン・アシュプールしかない
3ジェインは、電脳世界=マトリックスを作ったティスエ・アシュプール社の一族。創業者夫妻の多数いるクローンの一人であったが、前々作の事件で財閥を潰したもののマトリックスの中で生きる‟半神”となっている
電脳世界が発達した本作の時代には、擬験(スティム)」と呼ばれる素人でも簡単にスターに成りきり体験ができる娯楽が流行していて、十数年君臨したタリィ・アイシャムに代わって、前作のヒロインであったアンジィ・ミッチェルが新しいアイドルとして頂点にいる。3ジェインがその彼女に嫉妬して、抹殺しようとしたのが今回の騒動の出発点なのだ
彼女の恋人である‟伯爵(カウント)”ボビィは、アンジィを守るために身を挺して3ジェインが籠る電脳空間の箱「アレフ」を確保し、キッド・アフリカ(容貌はプリンスがモデル?)に頼んで、ジャンク屋のスリックの元にジャックインしたまま運び込まれたようだ
3ジェインの暴走は、久美子が自殺した母の秘密に迫るきっかけを与えていて、騒動の外側にいる彼女の問題を上手く解決させている

物語のオチについては、リアルより「電脳世界」が上位である世界観に忠実なものだった
第一作『ニューロマンサー』において、高度に発達したAIがマトリックスの世界では「半ば神」、人間同然の存在となったが、本作ではリアルで死んだ3ジェインが力を示したように、人間もまた電脳世界に身を投じ切ることで同じく「半神」となる
身体すら人為的に作れてしまうサイバーパンク的未来において、人間が人間たる所以は精神的なもの、「意識」しか残らないという思想がリアリティを持ってくる。本作では攻殻機動隊ほどの逡巡もなく、主要人物が電脳世界だけの存在に身を投じてしまう
ギブスンはアップルコンピュータの広告から未来をイメージしたといわれ、当時はまだ見ぬネット社会に対してかなり楽観的な時代だったのだ。それにしても、身体を捨てるのに抵抗がなさ過ぎるぞ(苦笑)
作品内で言及されているように、ネットの中の「神」といっても、電気のない場所では存在すら許されない。インターネットが現実化しいろんな歴史を持ってしまった今となっては、出来過ぎに見えてしまうだろう


前巻 『カウント・ゼロ』
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『カウント・ゼロ』 ウィリアム・ギブスン

キャラの立っていた人たちが、あっけなく瞬殺されるのだけがアレ(苦笑)


カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
売り上げランキング: 318,223


ハッカー志望の少年ボビイは、電脳空間へ初めてのジャックインした。経験不足から防御ソフト=アイスに捕らわれてしまうが、不思議な少女の声を聞くや離脱することができた。その一方、ニューデリーで身体を破壊された傭兵ターナーは、大企業マーズの施設から研究者を連れ出す仕事を請け負わされる。そして、失敗したばかりの画商マルディは、大富豪ヨゼフ・ウィレクから謎めいた「箱」の作り手を探すことを依頼されて……

『ニューロマンサー』と世界観が共通する続編的作品である
初心者ハッカーのボビイと、失意の画商マルディ、全身を破壊された状態から再生したガチムチ傭兵ターナーの三人が主人公で、それぞれの物語が並列して展開される
普通こうした構成だと、半ばも過ぎれば収斂されるものだが、これが中々交わらない!
中盤でもボビイが電脳世界で聞いた少女の声と、ターナーが救った謎の少女が淡い共通項として浮上するのみで、マルディは二人の話から全編を通して独立していて、ウィレクの口からターナーが連れ出そうとする研究員の会社マーズの生体チップが話題に出るのみだ
というわけで、いつ交わるのかと期待を胸に読み進まざるえず、最終盤でようやくカタルシスを味わえるのだ
洗練された文体に、読者を釣りに釣る構成、さらには前作『ニューロマンサー』の後日談もあって、エンターテイメントとして至高の出来栄えなのである

前作と同様に、全世界を覆う電脳世界脳みその一部から全体を再生する医療技術クローン技術で生み出されるニンジャ、そうした進み過ぎた技術や頽廃した社会については特に批評性はない
あくまでそうした世界に生きる主人公に寄り添っていて、SFというよりSF的世界で展開されるファンタジーである
ただし本作に限っては、アンジイという特別な脳を持った少女がヒロインたることで、それを使って生命維持装置から抜け出し不老不死を保とうという老人の野望は悪と見なされる。なんでもありの世界でも、老人が先行きのある少年少女の邪魔をしてはならないのだ
もっとも不老不死的な存在は電脳世界に漂っていて、半ば神として現れて主人公たちに訓示を与えていく。彼らの正体こそ、『ニューロマンサー』の結果として生まれた、AIがマトリックスに融合した‟半神”とおぼしい
オリジナルとコピーの境目どころか、創造者と被造物の境目すら氷解してしまうという、なんとも奇怪な世界が描かれているのである


次作 『モナリザ・オーヴァードライブ』
前作 『ニューロマンサー』
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